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火曜日の幻想譚 Ⅲ

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251.犬の番号



 娘にせがまれて、犬を飼うことにした。

 天にも昇らんばかりにはしゃいでいる娘と、嫌なわけではないが面倒な世話や出費が念頭にある妻。この二人を連れ、ペットショップへと出向いていった。

「いいか。大切な命なんだから、ちゃんと選ぶんだぞ」

いうことを聞いたかは分からないが、娘は10分ほど後に真っ白い1頭の犬を抱き上げた。利発そうだし、しつけもちゃんとできているそうだ。私たちが購入手続きをする間、その犬は「へっへっへ」と犬に特有の荒い呼吸をしていた。

 家に帰って足を拭き、室内に入れてやる。娘が相手をしているところを見る限り、お手、おかわり、ちんちん、待てができるようだった。また、トイレの場所もすぐ覚えたので、世話を面倒がっていた妻も安心したようだった。

 順風満帆に見えた私たちのペット生活だったが、名前をつける段になって奇妙な問題が生じた。会議の結果「ジョン」と名前に決まった彼に、名前入りの首輪をつけようと、娘が首に手を回したときのことだった。
「……なんだこれ?」
娘はジョンの首元の毛をしつこくなで、そこをじっと見つめる。そこには、焼き印のように「6」とはっきり分かる数字が示されていた。
「あざ、とかじゃないのか」
騒ぐ娘に言われて見てみると、確かに数字がはっきりと表示されていた。これは明らかにあざではないと思った瞬間、数字がヒュンと「7」に変わった。
 何だこれは、気味が悪い。だが、さっき私自身が言ったように、大切な命だ。首にカウントアップする数字が入っていたからって、すぐ取り換えるってのも変な話だろう。どうせ首輪で隠れてしまうからと娘に言い聞かせ、私たちはジョンを飼い始めた。

 数日後。
 ジョンの首の数字のことなど、もう気にもしなくなった私たちだったが、会社の帰り、ジョンを購入したペットショップの前を通りがかったときに、私はふとこのことを思い出した。店の前で気付いたのもなにかの偶然だと思い、店に入って店員さんに声をかける。
「あのう、数日前ここで、犬を購入したものなんですが」
店員さんに犬を買ったことを話し、首筋に数字があったことを告げる。どうやらよく聞かれるのか、店員さんは私の質問にこともなげに答えた。

「ああ、あれは、飼い主に殺意を抱いた回数です。殺意を抱くたびに増えていくんですよ」


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅲ 作家名:六色塔