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火曜日の幻想譚 Ⅲ

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253.才と欠落



 『イーリアス』や『オデュッセイア』で有名な詩人、ホメーロスは盲目だったと聞いたことがある。だが、確たる証拠は現代でも見つかっていないらしく、それどころか、彼が実在するかどうかも怪しいなんて話もあるようだ。
 とは言うものの、当時のギリシャでは、詩人は盲目の者がなると信じられていたらしい。秀でた才を持つ者は、何かが欠落しているという考え方があったのかもしれない。そう考えれば、ホメーロスが盲目であるのも分かるような気がする。わが国にも、びわ法師という盲目の優れた音楽家が、かつて存在していたわけだし。

 さて、現代を生きるわれわれも、ギリシャの人々と同じようことを考えているようだ。今、ホメーロスと同じ土俵に立つ者と言えば、やはりミュージシャンだろうか。少しネットで調べれば、彼らに関するゴシップはそれこそ枚挙に暇がない。もっとも、本格的にスキャンダルに発展するものはほとんどと言っていいほどなく、その大半は、つまらない話の羅列でしかないが。
 普通の人間である僕らは、恐らく彼らの能力に対して納得がしたいんだと思う。素晴らしい能力を持つ上に、人としても非の打ち所がなかったら、僕らは立つ瀬がなくなってしまう。だから、少しでも彼らの人間らしいところを垣間見て、同じ人間であることを知り、安心したいのだろう。
 だが、彼らの人でなしな部分を目の当たりにしたい、彼らは才能こそあるが、それ以上に醜い部分も大きい、そう思い込みたい者もいるようだ。くしくも、他人の醜い部分をあら探しすることで、自らの醜さを露呈していることに気づかずに。

 しかし、この考え方を突き詰めていくと、恐ろしいことが起こりはしまいか。物事を反対に考えてしまう人間が出てくるかもしれない。具体的に言えば、大きな欠落を持つものは何かに秀でる、という誤りを抱く人が出てくるかもという懸念だ。
 最初の話で例えれば、盲目の人が全員、詩才を得るわけではない。特に長所がない盲目の人も存在するはずだ。だが、わが子を歴史に残る人物にしたいと思った母が、その思いのあまり子供を盲目にする。こんなことがなかったと果たして言い切れるだろうか。そして、現代でも起こる可能性がないと断言できるだろうか……。


 え? ところで君はなんで、そこに針を置いているのかって? いや、偶然だよ偶然。たまたまそこにあっただけさ。いくら僕が下手くそな文しか書けないからって、そんなばかげたことをするはずがないだろう……。


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅲ 作家名:六色塔