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火曜日の幻想譚 Ⅲ

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254.オレンジ



 昔から、オレンジという色にはあまり縁がなかった。

 それほど快活ではなく、どちらかと言えば大人しい性格の私は、小さい頃からこのオレンジという色をあまり好んでいなかったのだ。恐らく、オレンジという明るい、誤解を恐れず言えば、アッパーな色合いがどうにも苦手なんだと思う。
 例えば子供の頃、服を選ぶときもオレンジはことごとく避けていた。まるでそこにないかのように、別の服を選んでいた記憶がある。大人になって、自分で服を買うようになってもそれは変わらなかった。店で選ぶ時点で、オレンジという候補は早々に消えうせ、紺や黒などの無難な色を購入する癖がついていた。
 それは服だけにとどまらない。飲み物を飲むときもそうだったように思う。ジュースの定番といえば、やはり、オレンジと言っていいだろう。だが私は、無意識的にその大勢に抗い、紫色のグレープや、麦茶のような色をしたりんごジュースを飲み続けていた。
 極めつけは、プラモデル。某ヒーローもののロボットのプラモデルを、誕生日に買ってもらった私は、それがオレンジ色であることがどうしても気に食わなかった。そこでどうしたか。人生で初めて、プラモデルの塗装を始めたのだ。なけなしの小遣いで塗料と筆を買い、慣れない手つきでロボットの全身を緑に塗ってしまった。買ってくれた母はあまりいい顔をしなかったが、私は大満足だった。

 それほどまで、オレンジと関わり合いのない生活を送ってきた私だが、どうしたことか、今、毎日のようにオレンジのネクタイを締めて会社に行っている。


「はい。パパ、プレゼント。おこづかいためて買ったんだよ」

 先日、かわいい盛りの娘から手渡された。それを開けてみたら、ど派手な色のネクタイ。紺のストライプが入ってるとはいえ、ちょっとオレンジは派手すぎるんじゃないか。

「絶対似合うから、明日会社にしてってね」

 一人娘にここまで言われて、断れる父親はいないだろう。翌日、きちんとそのネクタイで出勤する。軽い罰ゲームのつもりだったが、やはり気付く人は気付く。同僚の女性社員が早速、話を振ってきた。

「あら、すてきなネクタイですね」

 照れながら、昨晩、娘にもらった話をする。自分でも分かるほど顔に締まりがない。恥ずかしいところを見せてしまったと思ったが、案外好評で、子煩悩で家庭を大切にする人だという評価が、あっという間に社内に広まった。それだけではない。社外でも好評だ。話のつかみにも使える。そのおかげか、運のようなものが向いてきたのか分からないが、この数日で立て続けに2件も大きな契約を成立させることができた。これはもう娘とネクタイのおかげとしか言いようがない。
 そんなわけで、オレンジを嫌っていた私が、今やすっかり、オレンジのとりこになっているのである。

 今日は珍しく早く帰ろうと思う。仕事も結果が出ているし、何より娘にきちんと感謝をしなければ。そう思い玄関を開けると、話し声がする。妻が友人と話をしているようだ。

「そうなの。あの人センスがないから。娘からのプレゼントってことにしないとネクタイ一つ、変えないのよぅ」


作品名:火曜日の幻想譚 Ⅲ 作家名:六色塔