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堕楽した快落

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きづき

かつて愛した音楽は私にとって、私を壁とし、壁あてされている感覚なのであるが、空気だけ詰まったボールでは上手に跳ね返えらない故、私の手元にそれが残り、一度持つとどこからか投げ返して来いよと言われているような気がして、しかし私は一体どこへ投げ返せばよいのか分からず、それを持て余したままになっているのである。そしてそのボールを持っている状態というのは、相手の声が聞こえるのに対し、いくら私が呼びかけても応答せず、独り暗黒の舞台の上で、私にのみスポットライトを当てられている気分なのであり、漠然と湧く不明瞭な不安が唯々徒に私を煽るのだ。見えない客席から何か投げられるような気がして、何か言われているような気がして。
私は、私の血液を廻り、出口はどこだと嘆いた。気づくと体は成長し、その出口から遠ざかるばかりか、考えが一巡するまでも時間を要するようになった。それ故、昼夜考え事をする性格となり、物事の判断が鈍り、ある日のバイトで、おすすめのワインはなにかと聞かれた際、私の脳内にあるありとあらゆるワインの知識が溢れ出るため、回答に酷く時間をかけ、後日、酷いウェイターがいると、名指しでレビュー欄に書かれた。そのありふれたトラウマが鈍重な血液を廻り、その中で、フィルムがまた増えたと、カタルシスを見に来た脳内麻薬たちのせいで、思考停止する日々が続いた。
私は天才でもなく、凡才でもない。普通にすらなることを能わぬ非才であった。
才能とは光である。幾つもの光が、多角面からの光が、社会というものを照らし、不明瞭な定義が出来上がったのは、一点に、最もを照らす、最も輝いている場所があったためであろう。その上、天才とは、多数からの光を浴び、また、己も輝き、しかし、それが放つ光は、唯一にして無二なのであろう。それ故天才は天才なのであり、良くも悪くも、私は、偶々、光のない所に立ってしまった。未だ信じているのは、いつの日か、誰か、一人でも、私に光を当ててくれることである。かつて、私の作品を面白いと言ってくれた、友のように、恋人のように、その一言で、私が放つ光は何億倍にも、どの光よりも特異とし、数多ある光柱の中の一本になれたと信じている。
音楽が私を選んでくれない。文学にそう書いた。
作品名:堕楽した快落 作家名:茂野柿