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堕楽した快落

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塵問

その曖昧な存在は、私を苦難から遠ざけるため、甘い毒汁を呑ませた。私を私とする意識は、脱皮するが如く蕩け堕ち、しかし薄皮一枚のみならず、毒は次々と脱皮を助長し、肉体が剥がれ落ち、骨を削り堕とし、最終的には私をも脱皮した。実体がないことに気づかない己は、その幸福感に酔い痴れ、地球と踊り、地球に抱き着いた。
人を認識できない、認識できない私を認識する何かと化した私は、友人と家族の混同を繰り返し行い、愛を呑み、毒を抱いた。毒とさせた愛を、愛という毒で償い、しかし、その毒を払拭させるには別の方法をとらなくてはならない事実を理解しつつも、己のかんじゅ性に酔い痴れた。
一心不乱に、毎夜、一夜限りを尽くした。私はせいの本質を、混混沌沌している中、そこはかとなく理解しようとしてしまい、また毒を呑んだ。私を遠ざけるように。逃げていたのは私ではなく、私ではない何かで、何かであってほしくて、私でもあった。
毒は私から理性を奪った。
その曖昧な存在は、私を幸福に堕としいれるため、甘い毒煙を吸わせた。その毒は脳内を蠢き、体の隅々を這いずり廻り、足の爪の先から耳の軟骨までも鈍重に、沈殿させた。しかもそれは、私に毒を欲すような毒を混ぜ込み、しかし、私はそれらを上手く扱えていると、私がその主だと思い込んでいた。いうまでもなく、その実は、私にそう思い込ませていただけに過ぎず、その刹那的な快楽に、私は、私が、私こそ、最も幸せな人だと思った。しかし、言わずとも、私は幸福ではなかった。幸福にもなれなかったことを幸福と思い、妥協を妥協し、最も幸福な人ではないにしろ、己は幸福だと思い込んでいた。
己の武器にもした。武器にもなった。武器にするには人を選んでいたが、効く人には効いた。また、愛を呑み、愛を吸い、毒を抱いた。いや、もしかしたら全て毒だったかも知れない、愛なんてありやしないのかもしれない。毒を愛と思い込み、愛を毒と思い込み、そう思い込んでいただけで、愛も毒も、どちらも同じものだったのかも知れない。何かが引っかかる。透明なフィルター一枚越しに世界を見ているような、本当の世界を見られていないような気がした。しかし、薄皮一枚、透明であるものの裏を見たところで何も変わらないであろうと高を括り、冷静になって考えてもそうであると思っていた。
毒は私から知性を奪った。
作品名:堕楽した快落 作家名:茂野柿