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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(12)~(20)

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第十六話 冬の晩






「秋兵衛さん!お前さんとこでおまんまが焦げてるよ!」

「ええっ!?あ、ありがとうございますおそのさん!」

「早くしな!お師匠に怒られちまうよ!」

「はい!」

俺は桶を井戸端に放って家へと駆け戻り、慌てて薪に灰を掛けて消した。そしてお釜を開けてみると、中身はほぼ丸焦げだった。俺は、はあっと息を吐く。

おかねさんは、食べる物にうるさい。もしお米が丸焦げで朝ごはんが台無しになったなんて言ったら、癇癪持ちの彼女のことだからカンカンに怒って、俺は朝から飯抜きを言い渡されかねない。それに、お米だってもう少ししかないんだ。

「どうしよう…」

「何をだい?」

玄関口から飛び込んできたおかねさんのさり気ない一言に、俺の背筋は跳ねて、つい「なんでもないです!」と言ってしまった。でも、部屋の中は焦げ臭いし、おかねさんはすぐに気づいたのか、彼女の眼は一気に俺を射抜くように鋭くなる。

「…焦がしたのかい」

仕方ない。これはもう謝るよりほかない。俺は怯えながらゆっくりと振り返り、そのまま竈の前で床に手をついて頭を下げた。

「すみません!お米をだめにしてしまいました!」

すると、聴こえてきたのは怒鳴り声ではなく、実に楽しそうな笑い声だった。俺は呆気に取られ、畳に手を置いたまま顔を上げる。おかねさんはお腹を抱えて、あははと笑っていた。

「おかねさん…?怒ってないんですか?」

俺がそう聞くとおかねさんはようやく笑うのをやめ、部屋の中に上がってきて、着物の裾を手で足の下に滑り込ませて正座をした。

「なあに。あたしは怒ったりしないよ。じゃあ釜を洗ったら炊き直しとくれな。それから、今晩は久しぶりに「元徳」に出かけよう」

おかねさんはそう言って笑い、俺とは少し斜交いに座った格好のまま、優しく微笑んだ。









江戸の季節は、俺が飛ばされてきた秋から、いつの間にか冬になっていた。俺たちはぴゅうぴゅうと北風の吹く表通りを、着物の前を両手で合わせて、なんとか歩いていた。

うう、寒い。なんだか、令和の東京よりよっぽど寒い気がする…毎晩気温が下がっていくにつれて、眠りづらいほど寒くなっていってるしなあ…。

「もうそろそろ雪でも降りそうじゃないかね。お前さん、雪見は好きかい?」

「え、ええ…」

俺は「雪見」なんてほとんどしたことがなかった。江戸の人は雪見をするのが通例なんだろうか?

「そうかい、じゃあ一緒に雪だるまも作れるねえ」

「そ、そうですね」

へえ。雪だるまって、こんな古い時代からやっぱりあったのか。でも、もしかしたら昭和以降とは違う形かもしれない。これはちょっと楽しみかも。

「ふう、着いた着いた。早くあったかいもんをやりたいねえ」