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短編集90(過去作品)

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 明らかにさっきまでは明るかった。その証拠に表を見ていて、車内の明るさのために、景色がまったく見えなかったではないか。それはいつものことだが、その日、夢から覚めてからは表がハッキリと見えていた。
 この路線の電車は、昔からの車両と、新しい車両とが交互に走っているが、いつも乗る時間の電車は、新しい車両である。現在、新旧交代の時期に当たっているようで、夜はほとんど新しい車両に変わってきている。実際最近、古い車両に乗った記憶はなく、昔の車両が懐かしく感じることがあるくらいだ。
 新しい車両にも実は二種類ある。ほとんど設計は同じなのだが、座席のシートと、開閉する扉の色が違うのだ。片方は青を基調にしたシックな色で、もう一つは赤が前面に出ている目立つ車両である。
 しかし、色が違うだけの同じ車両なので、違いを感じることはほとんどない。普通であれば赤と青の違いに気付くのだろうが、疲れているためか気にならない。したがって後から思い出しても覚えているわけもない。どうしてその日に限って気になったのだろう。
 リアルに感じた夢の中、本当に夢だったのかと感じてしまう。夢に入る前の電車の中と夢から覚めてからの電車の中に違いがあるように思えてならない。違うとすれば車内の明るさ、それはシートや床の色の違いによるものだと考えるのが一番自然かも知れない。
 考えごとをしていなかったつもりでも、しているから色の違いを感じないのだろう。ひょっとして電車の中は自分の世界に一番入りやすい場所なのかも知れない。窓から見える流れる景色、止まっているものを見ているよりも動いているものを見ている方がいろいろなことを考えている。しかし、電車の中という空間は考えごとをしている感覚を麻痺させる何かがあるに違いない。
――果たして自分だけなのだろうか――
 他の人にもあるように思う。
 電車の中の揺れで眠気が最高潮に達することが度々あるが、他の乗客を見ていても、だらしなく寝入っている姿を目にする。きっと自分が意識している以上に、一気に襲ってくる睡魔なのだろう。
 乗った時は青いシートに青い床、しかし目が覚めた時には、赤いシートに赤い床、一体どこに迷い込んだというのだろう。
 その日に限って夢の内容をいつまでも忘れそうにもない。公園を横切って、タバコ屋の前。そして角を曲がるとまた同じ光景が繰り返される。まるで、折り返し地点にいるようだ……。
 その日……、それは一体いつだというのだろう?
 その日……、それは自分の人生を左右する夢を見た日ということになるのだろうか?

                (  完  )







作品名:短編集90(過去作品) 作家名:森本晃次