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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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天界での展開 (3)

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「わしが、権蔵の思考回路を知らぬと言うのか。」
「手っ取り早く言うと、そうだね。」
「・・わしは、ただ、これから苦楽を共にする者同士、わしを介さず、とことん理解するまで話すが良いと思うたまでじゃ。権蔵の頭の中など、手に取る様に分かるわ。」
「分かったよ。お気遣いありがとう。・・それじゃぁ、権蔵さん。あのね、あんたを殺したのは、何を隠そう目の前に居る閻ちゃんだよ。」
「えっ、そうなのか? 俺は、てっきり鶏肉の祟りだと思ってた。」
「まあ、それも少しはある。が、あんたが、急いで鶏の唐揚げを食べなきゃならない状況を作ったのは、閻ちゃんなんだ。あの時、鶏の唐揚げは四切れ残っていた。だが、そのうちのひとつを、この閻魔が食べて三切れにしてしまった。これは、三切れになった唐揚げに気付いたあんたは、間違いなく食べ急いで喉を詰まらせて死ぬだろうと閻ちゃんが思っての仕業だったんだ。」
「って事は、俺を殺した犯人は、閻魔さんってことか? それにしても、よくまあ、白々しく『お前は、何故命を絶った?』などと訊けたもんだ。」
「そうだよね。だけど、これには事情がある。あるから、人払いまでしての審判となっている。まあ、何十年か残っていた寿命を削ったのだから、其処の処だけは、あんたに納得してもらわなくてはね。」
「そうか・・、俺は、これも寿命だと割り切っていた・・俺さえ死ねば、食べられる筈の鶏たちも幾らかは長生きが出来るしな。しかし、残念だなぁ・・」
「もっと長生きしたかったかい?」
「うん、あと僅かで良かったから長生きしたかった。」
「そうか・・残念だったね・・・」
「うん。・・ところで、俺が喉に詰まらせた唐揚げだけど、俺は、死ぬ前に、その唐揚げを上手く飲み込んだのか?」
「うん、飲み込んだというか、あんたの胃袋に入ったのは確かだよ。あんたが急死した時に、俺も駆け付けたんだけどね、先に駆け付けていた藪蛇医院の先生に『喉に残っている唐揚げを胃袋まで押し込んでやって下さい。』と、あんたの奥さんが、泣いて頼んでいたからね。」
「そうかい。あの怖いばかりの女房が、そんなに優しいことを・・」
「そこのところは、少々微妙だけど・・」
「どう微妙なんだい?」
「実は、あんたが喉に詰まらせた唐揚げは、皿に残っていた五つの中で最も大きかった。元々、奥さんがその最も大きなのを狙っていたらしくてね、『わたしの口に入る筈の唐揚げが、亭主の喉に詰まっていると思ったら悔しくてしょうがない。いっそ、きっぱりと諦める為に、喉に残っている唐揚げを胃袋まで押し込んでやって下さい。』と言いながら、恨めしそうな顔をして、『これで・・・』と、隣のお虎婆さんが使ってる杖を先生に渡したんだ。先生は、『これで・・押し込むのですか?』と、三度も四度も訊いたんだけどね、その度に奥さんが何度も頷くから、『本当に良いのですね・・? では・・』と、杖を使って唐揚げを押し込んだ。」
「そうだったのか・・ じゃあ、良かった。死んで悔いはない。その時、もし、女房の奴が、ペンチかプライヤーで以って、詰まらせた唐揚げを俺の口から取り上げていたなら、化けて出てやるところだった。」
「もう少し長生きしたかったって、その唐揚げ一切れのことだったの?」
「そうだけど、何か?」
「何でもない。・・やっぱり権蔵さんを選んで間違いなかった。」


打ち明ける ね


「地蔵菩薩様、僭越ではございますが、先程から伺っておりますと、この死人が地蔵菩薩様と苦楽を共にするとか、この死人を選んで間違いなかったとか仰せで御座いますが、一体、どの様な仔細あってのお言葉でしょうか? それに、この閻魔殿での審判は、閻魔様と死人の介添えをする秘書官、それに、この場での死人の処遇を詳細に書面にて記す書記官のみにて行うのが規則の筈。この様に書記官を退室させて、審判に関係ないと思われる主倍津阿教授と桃花を同席させるとは、如何なる理由に依るのでございましょうか?」
「純真、お前が、その様に申すのももっともな事だね。本題を話す前に、この天界の事情で権蔵さんの寿命を数十年も早めた事を本人に伝え、まずは、彼の反応を確かめたのだよ。まあ、権蔵さんの相変わらずの性格で少々手間取ったけど、彼は、寿命を縮められた事に関しては何一つ苦情を言わなかった。もし、これが他の死人だったらどうだろう? もっと生きたかったと声を大きく申し立てただろう。あるいは、この場では黙って頭を垂れて素直を装い、後々会う者すべてに閻魔の手に依って寿命を削られたと不満げに言うだろう。何故なら、人というものは、それまで多少の山や谷こそあれ、自分が慣れ親しんできた世界に未練がある。同時に、これから暮らして行く未知の世界に大いなる不安を抱く。まして、人間界で暮らす中で、やれ地獄だのそれ極楽だの祟りだのと言われ続けた上で来た天界の閻魔殿。閻魔が『お前の寿命を縮めたのは、わしじゃ。』と伝えたなら、伝えられた死人は、ここぞとばかりに極楽行きを声高に申し立てるに違いない。だが、この権蔵さんは、まあ言ってみれば『ああ、そうなの? だけど、最後に口にした唐揚げだけは食べたかったなぁ』と言うだけで、寿命が他者の手によって削られた事など全く気にした風が見られなかった。彼はね、諸行無常を知らず知らず実践して生きていたからの所以だよ・・」
「おい、次郎吉。諸行無常って何だ?」
「あぁ、また口を挟むんじゃないかと思ってたけど、やっぱりね・・ 諸行無常とはね、その人の都合などに関わらず、起こる事は起こるって事だよ。」
「そうなのか? ・・・考えても想っても願ったとしても、その様にはならないって事だよな?」
「うん。思う様にならない事のほうが多いのだから、いちいち細かなことで悩むより、成った事を受け入れて喜べって意味が込められている。」
「そうかい。じゃあ良かった。俺は、例えお虎婆さんの杖を借りたとしても、最後に頬張った唐揚げが胃袋に入ったんだからな。」
「まあ、些か話が小さいけど、そういう事。」
「だよな・・、じゃあ、やっぱり怖くてしょうがなかった女房にも感謝しなきゃな。あいつの食い意地が張っていなかったら、俺の心残りは、今も続いているからな。」
「褒めてるのか、貶してるのか分からないけど、そう思って貰えれば、俺達も権蔵さんを殺した甲斐があったというものだ。だけど、これからとても大切な話をするからね、権蔵さん。お願いだから、暫くの間・・というか、俺の話が一頻り終わるまで、どうか黙って聞いてて貰えないかな?」
「分かったよ、次郎吉。」
「さて、話を戻すけど、今、人間界は、我々天界の者が想い描いた世界にはほど遠い。
昔、今からおよそ六十四億七千万恒河沙由旬前の話だが、当時、天界と人間界は、一本の道で繋がっていた。今でも繋がっているといえば言えなくもないが、今は、誕生と死という漠然としたもので繋がっているだけだ。昔は、本当に行き来出来る道が存在したのだ。そして、繋がっている双方をそれぞれ右天界と左天界と呼んでいた。つまり、人間界と呼ばれる世界は、存在しなかったのだ。
作品名:天界での展開 (3) 作家名:荏田みつぎ