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荏田みつぎ
荏田みつぎ
novelistID. 48090
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天界での展開 (3)

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「・・桃花、まさかお前、この一二三院四五六居士の生まれたままの姿を目にして、先行きを儚んで自らの命を閉じたのか? 許してくれ・・私の所為です。すべて私が悪いのです・・・」
「そうです、すべて秘書さんが悪いのです。どうしてくれるんだ、俺の女房の命を絶たせやがって! これじゃぁ、先行き何も楽しみが無いじゃないか!」
「う~・・ 黙って聞いていれば、臆面もなく言いたい限りを・・ そもそもは、一二三院四五六居士、あなたが悪いのです! あの時、あなたさえ、大人しく閻魔殿審判執務室の控え室に入ってさえいれば・・ あっ、あの時、あなたが壊した扉の取っ手は何処ですか! あなたの死装束の片袖に気を奪われて、重要有形文化財の扉の取っ手の事を失念しておりました。取っ手は、何処ですか! というか、何処に消えたのだろう・・あの時、丁度、取っ手と片袖とを同時に交換しようとした、当にその時に、秘書室長様に声を掛けられて・・私は、外出して・・あなたの引き起こした重大事態に付き合わされる羽目となり・・取っ手の事をすっかり忘れていました・・その後の取っ手の行方は・・、まさか・・紛失・・? あ~~~、どうしよう・・あ~~、もう終わりだ・・完全に懲戒免職だ。。。いや、免職などで簡単に済ませられる失態ではない。あ、そうか・・そうだったのか・・取っ手を紛失した咎で、私は、ブラックホールに閉じ込められる運命となったのか・・」
「もしも~し、何を一人で、のたうち回りながら長ったらしく嘆いているんだい? 扉の取っ手、ドアノブともいうけれど、それなら此処に在るよ。はい、どうぞ・・」
「・・! あなた・・それを、ずっと持って歩いていたのですか?」
「そうだけど?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ああ~~助かったぁ~・・・」
「其処かい!」


唐揚げと 死の 関係


「まずは、俗名、権蔵よ。その手にしておる扉の取っ手を純真に渡すが良かろう。」
「はい、・・ほらよ、秘書さん。」
「わっ! ・・・何も放り投げる事はないでしょう。危うく床に落とすところでした。」
「良いじゃないか。何とか受け取れたんだから。」
「さて、これまでの問題は、今を以って片付いたとする。・・それでは、これよ此処に居る者達に、重要且つ他言無用なる話を致す故、心して聴く様に。」
「はい・・」
「・・・」
「・・」
「・・」「・・・」
「だが、重要な話の前に・・権蔵、お前は、何故命を絶ってこの天界に来た?」
「何故と訊かれたから話すんだけど・・、いや、何ね、俺は自ら命を絶って、此処に来たんじゃない。あの日、俺は、俺が一日のうちでで最も楽しみにしている夕食を食べていた。・・あれ? この事は、ごく最近、誰かに話した記憶がうっすらとある。が、まあ気にしないで話すけど、その日は、俺の大好物の鶏の唐揚げがテーブルに出されていた。何時もの様にガツガツと食べながら、ふと気付けば、俺の好物の唐揚げが、あと三切れしか残っていないじゃないか・・俺んちはな、ご飯以外の食べ物は、全て大皿に盛るのが慣わしだ。まあ中華風盛り付けとでもいうか、女房の手抜きというか・・どちらだろう? と考えた事も無いというか、兎に角、腹いっぱい食べられる幸せ感がだな、残り三切れしかない唐揚げを見た途端に、まるで戦場で戦っているかの様な気持ちに変わった。そりゃ、そうだろ? うちの家族は四人だ。それに対して残った唐揚げは三切れ。つまり、四人が一人一切れずつ食べようとすれば・・え~~とぉ・・・つまり、どうなるのかというと・・」
「誰か一人が、唐揚げを食べられない。」
「そう。そうなんだ。柄にもなく算数の足し算で計算してみようとしたのが間違いだったか・・」
「その場合、引き算です。引き算で、計算するのです。」
「いや、世間はどうだか知らないが、俺の場合は、足し算で計算する。まず、幸せな場合と不幸せな場合のどちらが今のこの状況だろうと考える。この場合に限って言うとだな、三切れしかないのに気付いた時、俺は、丁度、唐揚げを口に入れたばかりだった。これは、不幸と言わざるを得ない。何故かというとだな、まず、一切れを女房が食べる で 女房+一切れだろ? 次に、女房に似て口の大きい長男が食べるに決まっているで 長男+一切れだ。そして、お兄ちゃんに負けじと長女が急いで箸を差し出すから、長女+一切れとなる。そして、口に入れていた唐揚げが、やっと喉を通り、『権蔵、次の食べ物を口に頬張れ。』と、胃袋が指示を出す で 俺+一切れ となる筈の一切れが無くなっている。無いものは足せないと安心寺の和尚が言ってたから、俺に足そうにも無いから足せない。だから無いという事になる。つまりだな、俺にとって最悪の事態を招きかねない訳だ。という風に、いちいち説明すれば長くなるが、手っ取り早くだな、女房+一切れ、長男+一切れ、長女+一切れ、俺+・・何もないぞ と一瞬のうちに足し算で計算するんだ。まあ、俺が知ってる限りの足し算の計算方法に付いて説明するまでもないだろうが、結構凄い計算方法だろ?」
「・・まあ、ある意味凄いとは、思うが・・」
「・・・」
「・・」
「・・・」「・・・・」
「そうか? やっぱりな。凄過ぎて、みんな唖然としているのか。まあ、足し算の計算方法は、これくらいで止めてだな、最も重要な問題は、四番目に計算した 俺+何もない ってところだ。何もないって事は、皿にあった唐揚げは、もう無くなっているって事だ。計算では、無くなっている唐揚げが、俺が、気付いたその瞬間には、まだ三切れある。足し算ってのは、凄いよな~~、今ある唐揚げが、間もなく無くなるぞ~と分かるんだからな。だから俺は、今口に入れたばかりの唐揚げを咀嚼もしないで飲み込んで、急いで残り少ないから揚げに手を伸ばした・・ と、そこまでが俺の記憶だ。その後、気付いてみれば、俺は、死装束姿で閻魔殿の入り口に並んでいたという次第だ。」
「つまり、お前は、鶏の唐揚げを飲み込めず、窒息死したのじゃな。」
「窒息死じゃなくて、唐揚げが喉に詰まって息が出来なくなって死んだ。」
「それを、窒息死というのじゃ。」
「そうなのか? じゃあ、牛肉が喉に詰まって息が出来なくなって死んだら、どういうんだ?」
「その場合も、窒息死じゃ。他の食べ物が喉に詰まっても、誰かに首を絞められたとしても、窒息死じゃ。」
「そうなのか・・ 天界では、難しい言葉を使うんだな・・」
「お前は、ベラベラと喋る割には、所々で理解不能な言葉がある様じゃの。」
「当り前ですよ。全ての事を知っている人間など居ない。」
「また安心寺の和尚の受け売りか・・ まあ良いわ。話が長くなるから、本題に移るとする。地蔵菩薩。わしが直々に話しても良いが、此処はひとつ、長年権蔵と関わりを持ったお前から話すが良かろう。」
「そうだね。・・しかし、自己顕示欲の強い閻ちゃんが、あっさりと俺に重要な話をするのを譲るとは、些か驚いたよ。」
「うむ・・まあ、その権蔵に事の次第を理解させるには、お前の方が適任じゃと判断したまでじゃ。」
「とか何とか言って・・ 権蔵さんはね、彼の思考回路さえ分かれば、これほど単純極まりない人はいないと思える人だよ。」
作品名:天界での展開 (3) 作家名:荏田みつぎ