天界での展開 (3)
「閻魔様の御前に呼ばれるまでは暇ですから、どうぞ、ご自由に・・」
「はい、ありがとうございます。う~~ん・・そうですねぇ・・、頭脳は、それほど良くありませんな。いや、むしろ悪い。と、ただ普通にサラリと言えば嘘になる・・もの凄く悪くて救い様が全く無い が正確な表現でしょうな。体格は立派だが、顔が悪い・・というか、一度見れば忘れない、何処かアンバランスな・・・」
「おい、今後の運勢を と言った筈だぞ。あんたが言ってるのは、見た目だけで、ちっとも占いになっていないじゃないか! 俺がいちばん気にしている顔の話などおっ始めやがって・・」
「あ、その何とも形容し難い顔を見た途端に、占うのをコロッと忘れておりました。・・あれ? う~~ん・・どうも、何か・・妙な雰囲気が する 気が する様な・・しない様な・・」
「どっちだい!」
「まあ、待て。・・う~~ん・・・」
「死人番号183742。閻魔殿審判室へ入りなさい!」
「はい! かしこまりました。同道の閻魔殿秘書室第一秘書の純真と共に中に入ります。さあ、一二三院四五六居士、閻魔様の御前に・・」
「・・なんだよ、もう・・・ あんたの占いは、結局のところ う~~んと、あれ? だけじゃないか・・ 人様の顔の造りだけはっきりと悪し様に言いやがって・・」
「こりゃ! 其処なる死人! 閻魔殿審判室にブツブツ言いながら入るでない! 此処は、今後のお前の行き先を決める厳かで神聖なる場であるぞ。」
「ぅわ~~・・大きいなぁ・・ こりゃ、想像以上だ・・」
「死人番号183742、俗名、権田権蔵。わしが閻魔大王である。どうじゃ、このわしの大きさに度肝を抜かれたか。」
「ん・・? あぁ、あんたが、閻魔さんか? いや兎に角デカいわ。天井は高いし、壁の絵は煌びやかだし、それに、何より広いわ、この部屋は。まるで東京ドームみたいだ。あんた、この広い部屋を一人で使ってるのかい?」
「・・驚いたのは、部屋の広さであったのか・・ このわしの大きさにでは、なかったのか・・」
「確かに大きいが、あんたの大きさには、驚かない。死ぬ前に、ちゃんと安心寺の和尚から聞いている。和尚は、『雲を突く様な大男だ。』と言ってた。が、雲どころか、天井も突いていない。」
「そうであったか(和尚め、余計なことを吹き込むから、わしの威厳が台無しじゃ。もう少し忖度というものを心掛けろよな・・)・・ところで、権蔵よ。お前は、生前は真面目に働いておった様じゃが、その真面目さに反して、この天界での数々の行いは決して褒められたものではない。」
「閻魔大王様。この一二三院四五六居士に審判を始める前に、是非ともお聞き頂きたい事がございます。実は・・」
「純真、その事は、もう言わずとも良い。既に、わしの元へ、この男の天界での行状の全てが報告されておる。」
「既に報告されておるとは・・、それは、一体誰からの報告でございましょうか・・」
「その様な事をいちいち詮索するでない。」
「はい・・、申し訳ありません。」
「・・それでは、只今より、死人番号183742の審判を開始する。・・が、その前に、異例中の異例ではあるが、死人番号183742と閻魔殿秘書室第一秘書の純真を残し、他の書記官どもの退室を命ずる。」
「ははっ!」
「・・・」
「・・」
「・・・閻魔様、度々の詮索で恐縮ではございますが、これは一体・・ この死人と私を永遠に宇宙のブラックホールに閉じ込めるおつもりでの人払いでございましょうか・・」
「純真、お前は、ブラックホールへ閉じ込められる様な悪行を犯した覚えでもあるのか?」
「いいえ、とんでもございません! この純真、天界で公務を拝して以来、只々忠誠心で以って勤めてきたとの確信を持っております。しかしながら、もしも・・例え気付かぬうちにでも違背がございましたなら、如何なる罪科をも承る覚悟は出来ております。」
「そうか。それならば良い。良いから、暫くの間、黙っておれ。」
「・・・」
「おい、秘書さん。いくら閻魔さんに『黙っておれ』と言われたとしてもだな、そこは、頭を下げるだけでは、駄目だと思うよ。はい と、静かに覚悟を決めながら頭を下げろよ。ついでに、短い付き合いだったが色々と世話になったな。これで見納めになると思えば、俺としても、やや寂しさを感じるが・・まあ、ブラックホールとやらで立派に務めを果たした後に、またの再会を・・ じゃあな・・元気でな。」
「こりゃっ! 権蔵、一体、誰が、純真をブラックホールへ送ると言った? お前の惜別の言葉に・・見るが良い、純真は、項垂れて言葉も出ぬ様子じゃ。勝手なことをベラベラと喋るでない! そして純真よ、長所は短所でもある事を忘れるな。お前は、真摯に公務に当っておる。例え相手が誰であろうと、すべての案件を法に照らし是々非々で誠に立派な態度で受け応えておる。それは、この天界の誰もが知っておるし、それが、お前の最大の長所である。しかし、その最大の長所を活かしても、何とも対処に難しい異端の者が若干ではあるが居るという事を、この度、身を以って経験したであろう。ほれ、其処に居る権蔵じゃ。お前は、この権蔵の様な異端の者に対しては、どの様な法も規則も通用せぬと知り狼狽えた筈じゃ。・・まあ、話の続きは、後にするとして、地蔵菩薩! そして、地蔵と共に次の間に控える者ども! 審判室への入室を許す!」
「・・」
「・・・・」
「・・」
「・・やあ、閻ちゃん、久しぶり。元気そうじゃないか。」
「地蔵よ、相変わらず公私混同だな。軽口が過ぎるぞ。」
「まあまあ・・久しぶりに、本音トークが出来ると思って楽しみにしてるんだから・・ ・・やあ、権田権蔵さん、久しぶりだなぁ・・」
「・・? ・・あれ? お前、次郎吉じゃないか・・ お前も死んだのか?」
「うん、まあな。俺の場合、死んだり生き返ったりが忙しくて・・ あのね、内緒だけど、権蔵さんには人間界でお世話になったし、此処だけの話として教えてあげるね。俺は、人間界では、自転車屋の次郎吉。そして、この天界では、何を隠そう世の最も最下層の人々の苦しみを救う使命を帯びている地蔵菩薩なんだよ。」
「えっ、そうだったのか? それで、生き返ったり死んだり、そんなの出来るのか? ひとつ俺にも教えろよ、その生き死にの術を。」
「好いよ、後で教えてあげるよ。だけど、権蔵さん、何時もの事で、俺は慣れてるけど、あんた、驚くところが違うよ。まあ、そこが、権蔵さんの面白いところでもあるけどね。」
「一応、褒めてくれたんだな? それは、ありがとう。 ・・ん? お前、さっき、閻魔さんに向かって『閻ちゃん』とか、馴れ馴れしく言ってたな? 友達かい? そうか、そうか・・、人間界と同じ様に、気の合う者同士で時々は飲みに行くのかい?」
「まあ、その辺りの事は、権蔵さんの想像とは少々違うけれどね。追々分かって来るよ。」
「そうなのか? じゃあ、急いで聞く事も無い。・・・とか、懐かしさのあまり、次郎吉とばかり話していたから気付かなかったが・・、ふと見れば、あんた、賢いと評判の秘書さんを教えた、賢いセンセじゃないか。センセも死んだのかい? そして、まあ! 若い姉ちゃん・・桃花とか言ったな、お前も死んだのか?」
作品名:天界での展開 (3) 作家名:荏田みつぎ