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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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元禄浪漫紀行(1)~(11)

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師匠の演奏は終わった。

俺は圧倒され、そして感動して、拍手喝采を送りたいのを我慢しているくらいだった。

それは、三味線の演奏なんてろくろく聴いたこともない俺からしても、見事なものだとわかった。

音色が華やかで、かつ深みがあって、凄みまで感じるものだった。


俺がにこにことして聴き入っていたことは師匠にも気づかれていたのか、一度おかねさんはこちらを向いて、微笑んでくれた。

ところが、そのあとが問題だったのだ。





「違う!違うったら!そうじゃない!」

「だ、だってこうなっちまうんで…」

「もう!お前さんは覚えが悪いねえ、いーい?もう一度やるからよくお聴き。次にできなかったら容赦はしないからね!」

「へ、へい…」


俺の聴いたところ、というか、誰がどう聴いても、栄さんはまったくの素人だった。ところが、“春風師匠”は気が強すぎるのか、間違えた時の怒り方が尋常ではなかった。

怒鳴りつけるのはもちろんのこと、一度なんか、師匠が撥をぐっと握りしめる場面もあった。俺はあの時ばかりは、「もし何かあったら自分が間に入ろう」と思った。


芸事の師匠は厳しいってイメージはあったけど、ここまでとは思わなかったな…。




「すみませんで師匠…」

「はいはい、もういいよ。お帰りな」

「へい…」

結局栄さんは謝りながらすごすごと帰って行き、次にまた男の人が現れた。

ところがこちらは先ほどの栄さんとは違って、なかなかいい方と思えた。



静かに戸を開けた男の人は、すらりと背は高いながらも物腰は穏やかで、喋り調子も柔らかでよどみなかった。

師匠にきちんとした挨拶をしてから、俺のことを丁寧に聞き、そしてその人は、俺にも頭を下げてくれた。

「わたくしは角の味噌屋の者で、六助(ろくすけ)と申します。お見知りおきを」

「あ、ああ、ご丁寧にどうも…」

「では師匠、お願いいたします」

そして師匠は、さっき永さんが弾いていたものよりずっと難しそうな曲を弾き語り、六助さんはなんとかそれに調子よくついていっていた。




「…まあ、今日はこんなもんだろう。お父様とお母様によろしくと伝えておくれな」

「はい、今夜も、どうもありがとうございました」


そして六助さんは、にこっと笑って俺にも会釈をし、来た時と同じように静かに帰って行った。


しかし、扉が閉まると同時に春風師匠はどたーっと仰向けに倒れて、大きく息をする。

「ど、どうしました!」

俺が駆け寄ると、師匠は今度は笑い出した。

「いやあ、お師匠稼業は疲れるったらないよ。特に六助さんはお行儀の良い人だから、こっちも気が張るじゃないかさ」

俺はそんなことを言われてすっかり面食らってしまったが、春風師匠、いや、おかねさんは、からからと笑った。


「これから飯時だから、お前さんにここいらを案内してから、どっかで夕食にしよう」