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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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愛しの幽霊さま(11)~(14)

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第12話 舞依の奮闘記






ここ三日間、雪乃が学校に来てない。学校から帰って雪乃に電話してみたら「風邪だから、心配ないよ」と言っていたけど、雪乃のあんなに落ち込んだ声、初めて聴いたもん。絶対違う。

またあの時彦さんのことで何かあったのかな。でも、あれからもう半年も経ってるし、忘れてるんじゃ…。

スマートフォンを手に取って時刻を見ると、もう1時だった。

「さすがに電話するにしても…」

私は明日、学校が終わったら雪乃の家に行くことに決めた。





「まあ舞依ちゃん。雪乃にお見舞いに来てくれたの?」

雪乃のお母さんが、チャイムを鳴らした私を迎えてくれた。私は学校の後でまっすぐに雪乃の家まで来た。

「はい。雪乃いますか?」

「いるわ。ずっと部屋から出てきてくれないの。何があったのか聞こうとしても答えてくれないのよ…」

「やっぱり…」

じゃあ多分時彦さんのことだろう。私はそれで思わずそう口走った。

「え、なに?」

「あ、いえ、なんでもないです。雪乃に、会えますか?」

「ええ、どうぞ」





私が雪乃の部屋に通してもらった時、雪乃は眠っていた。

「少し様子を見て、起きないようだったら、起こしても大丈夫ですか?」

雪乃のお母さんにそう聞くと、少しためらったようだったけど、「ええ、大丈夫よ。舞依ちゃんになら、話してくれるといいんだけど…」と言って、お母さんは階下に降りて行った。

お茶とお茶菓子を届けてもらってから、しばらく雪乃のベッドの脇に座って、私はベッドにもたれていた。


幼稚園が同じで、男の子たちからからかわれていた雪乃の味方についたのが、私たちの始まり。それなら、こんな時に役に立てなくてどうするっていうのよ。


私はちょっと雪乃を揺り起こしたけど、それだけでは起きなかった。

「もうちょっと…」

そう言って私が本格的に揺さぶろうとした時、雪乃はうっすら目を開ける。そして、何かに驚いたように、飛び起きた。

「…舞依…」

雪乃は驚いた時、一瞬嬉しそうな顔をした。でもそれは私の顔を見てすぐにしぼんでしまった。

「やさしい舞依ちゃんが来ましたよ」

雪乃は脇を見ていたけど、ふいに視線を宙に浮かせて、こう喋りだす。

「時彦さんね…いつも、今の舞依みたいにベッドに寄りかかって、それで「おはよう」って言ってくれたの…」

どこか夢うつつのような雪乃の表情は疲れ果てていて、私は「やっぱりそれか」と内心で思った。

雪乃はさびしそうで、悲しそうで、さらにぼーっとしている。こんなの、絶対普通じゃない。私は危機感を感じて、こう言った。


「ねえ雪乃。話して。今度は絶対に。何があろうと私に聞かせて…お願い」






私は雪乃から駅前のバス停でのことを聞かされて、唖然としてしまった。


なによ。なんなのよその時彦って男は!

他に彼女がいたくせに、ずっと雪乃の家で雪乃をたぶらかしてたってわけ!?信じられない!


絶対、文句言ってやる!


私はそう決意して、それを雪乃には言わずに、「わかった。雪乃、もう休んでて」とだけ言った。

雪乃に今そんなことを言っても、混乱させるだけかもしれない。私がやる。

「うん…うん…ごめんね舞依…」

雪乃は話しながら泣き出したままで、しばらく横になって涙を流し続けてから、泣き疲れて眠ってしまった。


許せない。茅野時彦。雪乃をこんなにしちゃうなんて。