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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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愛しの幽霊さま(6)〜(10)

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第9話 さよならも言わないで






お父さんとお母さんの出発前、三人で朝食を食べていた時、お父さんが急にこんなことを言い出した。

「なあ…父さん、昨日妙な足音を聴いたんだ」

それを聞いた瞬間、私は背中に冷水を浴びせられたように寒気がして、“まずい!バレた!”と焦った。

でも顔色を変えてバレてしまわないように気をつけていると、お父さんは続きを喋りだす。お母さんはよくわからないから続きを聞いていたかったのか、何も言わなかった。

「…真夜中だ。トイレに起きたから、寝室からそこまで歩いた。でも…雪乃。二階から足音がした。初めは雪乃かと思った。でも、昨日夜中に起きたか?」

私は反射的に、首を振ってしまった。

もちろんここで嘘をついてごまかすこともできるかもしれない。

でも、さらにお父さんが何か聞いてきたり、新しい事実を出してきた時、私の言うことがそれとは噛み合わなかったら。私が説明できないことを聞かれたら。

上手くいく保証はないもの。

「そうか。そうだよな。あれは…男の足音だ。重くて、速い。だからおかしいなと思ってしばらく聴いていたら、それはふっと消えて、二階からは物音一つしなくなった」

お父さんが重々しく、でも怖そうに細い声でそう言い終わると、お母さんがこう言う。

「もう。お父さんったら急に何を言い出すのよ。それじゃあ一人で家にいる雪乃が怖がるじゃない。気のせいとか、寝ぼけてたわけじゃないの?」

そう言いながらお母さんは不安そうな顔をしていて、自分の方がよっぽど怖がってるみたいだった。

すると、それを見てお父さんははっとして、しばらく考え込むような顔をしてから、ちょっとくすっと笑った。

「そうだな。もしかしたら、寝ぼけて夢を本当と思ったのかもしれない。ごめんよ雪乃。怖くないかい?」

「う、うん、大丈夫…」

なんとかそう言ったけど、私はこう思った。


お父さんが本当に帰ってきたら、ごまかし切れないかもしれない。


私はそれを思うと、不安で堪らなかった。

もし、二人のうちどちらかが、「怖いからお祓いをしよう」と言い出したとして。

「いやだ」と言って二人を説得するなんて、できることなのかな…。





「どうしたの。悩みごと?」

両親がアメリカにまた旅立って行く朝、私はそう聞いてきた時彦さんに、初めて嘘をついた。

「なんでもないですよ。ちょっと、考えごと」

「そう…」

時彦さんは、ためらいがちに笑っていた。







月曜日に学校に行った時、昼休みに一緒にお弁当を食べようとして舞依の席まで行くと、舞依はいつものように「早く食べよ」と私を迎えてくれた。

「「いただきまーす」」

お母さんが居なくて、料理に慣れていなかった私は、自分でお弁当を作るのは大変だった。

しばらくの間は、舞依が持ってくる具だくさんなお弁当がうらやましかったけど、今朝は久しぶりにお母さんが作ってくれたから、豪華で美味しい!

「あれっ。お弁当、元に戻ってる」

「うん、昨日だけお父さんとお母さん帰ってきたんだー」

「そうなんだ。良かったね〜」

私たちはそれぞれに、唐揚げや玉子焼き、ブロッコリーやミニトマトにサラダ、それからハムで巻いたチーズや、焼肉で巻いたにんじんを食べた。もちろん、ふりかけのかかったごはんも。

「あ〜お母さんありがとう!美味しい!」

私が思わずそう叫ぶと、舞依は私の頭を撫でて「いいこ、いいこ」と言っていた。

「舞依はお母さんじゃないでしょ」

「でも、雪乃によく勉強教えてるもん」

「それとこれとは…」

「はい、ごちそうさまでした」

「あ、ごちそうさま」

私がなんとなくごちそうさまを言って、お弁当箱を元通りにしようとしていた時、不意に舞依がこんなことを言った。

「でもさ、雪乃ちょっと痩せたんじゃない?ていうか、かなり」

「え、そう?」

私は何気なく聞かれたことだと思ったのに、舞依の顔を見ると、じっと私を見つめていて、真面目そのものだった。

そしてその真面目な顔のまま、私を見て舞依は真剣に私に聞く。

「ダイエット中にしたって、もうやつれてるくらいじゃん。ちゃんと食べてる?」

「う、うん…食べてるよ?朝昼晩、ちゃんと…ダイエットもしてないし、気のせいじゃない?」

すると舞依は急いで首を振る。

「気のせいなんかじゃないよ!帰ったら体重計って!絶対!」