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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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愛しの幽霊さま(6)〜(10)

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「ほんとだあ…え〜、5キロ減ってる…」

その晩、家で体重計に乗って、私は驚いた。前に計ってから1ヶ月も経っていないのに、私の体重は5キロも減っていた。

どうしたんだろう?そう思いながら、体重計のあった洗面所で鏡を覗き込んでみて、また私はびっくりした。


確かに、顔も痩せてる。Tシャツの半袖から出た二の腕も、首も、前より細くなってる。


…ダイエット、しなくていいかな?一回くらいなら、好きなものいっぱい食べてもいいかも!

って、昨日ビスケット食べたばかりだけど。

私は、お母さんがお土産に買ってくれたチョコレートを食べることにした。

明日、なんとか舞依に、「心配ないよ」って言わないと。でも、こんなに短期間に、なんでこんなに減ったのかな。

思い当たることがなかったけど、その晩はアメリカのチョコレートを食べていた。



私はこの時は、自分の身に恐ろしいことが起こっているなんてわからなかったけど、翌朝、思いもよらぬ「さよなら」で、それを知ることになる。





朝になると、初めて、私が起き上がる前から、枕元に時彦さんが居た。

私はちょっとびっくりしたけど、最近では時彦さんが急に現れるのも慣れていたから、ちょっとびっくりしただけで、「おはようございます」を言った。

すると、時彦さんはちょっと悲しそうに笑って、同じように「おはよう」と言ってくれた。

でも私はなぜか、その朝の時彦さんがあんまり儚げに微笑むから、時彦さんを見つめたまま、動けなくなってしまった。


もしかしたら、私が驚いて悲しんだ顔をしたなら、時彦さんが次の言葉を言わないと決めてくれるんじゃないか。

私はそんなふうに、別れの予感を感じてしまったのだ。


「…「幽霊が取り憑いた人間は、体力を消耗して、やがては死んでしまう」って話、聞いたことあるよね?」

突然の通告は、平和な朝の光に包まれた部屋でされた。

私は、自分の体重が急に5キロも減った理由が分かって、それから、時彦さんがなぜこんな話を始めたのか、理解する。


……いやよ。


私は我知らずに、かすかに首を振っていた。すぐに時彦さんに説得されてしまわないように。

いやだいやだとわめき出したら、“子どものわがまま”と、一蹴されてしまうかもしれない。

時彦さんは優しげな微笑みを崩さず、少しうつむいて瞼を伏せた。朝の光に透ける彼の姿を見るのが最後だなんて、知りたくないのに。

「…知ってるね。だから、お別れしよう」

時彦さんは窓に向かって顔を逸らし、朝陽に体を向けて、今にもそこから飛び立って行ってしまいそうだった。


私には、断るすべがない。

どうやっても、時彦さんを引き留めたら私が死んでしまうんだろうから。


私だって死にたいわけじゃないけど、だって、こんなに急になんて…。



「君を見守っていたくて…一緒にいたのは、僕のわがままだった。これ以上、付き合わせられないから…」

「待って…」


朝陽に溶けて、時彦さんが消えてしまう。こんなに急に。

私はその姿に駆け寄ったのに、時彦さんは軽く手を振りながら、たった一瞬で消えてしまった。


「嘘…」

嘘なんかじゃないのはわかっていた。でも私はそれから、家中を駆けずり回って、初めて会ったあの日のように、何度も彼を探した。


でも見つからなかった。彼はいってしまった。

「さよなら」も言わないで。