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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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愛しの幽霊さま(6)〜(10)

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ある日の暮れ方、部活で遅くなってしまった私は、夜道を家まで歩いていた。

ローカル線の駅は家のすぐ近くだし、10分も歩けば着くからと、私はスマートフォンを取り出して、メールを読んでいた。それはお父さんからの久しぶりのメールだった。


“雪乃、元気ですか。

お父さんとお母さんは仕事が上手く行き始めて、そろそろ軌道に乗ったから、もしかしたら帰るのが早まるかもしれないよ。

まだ一度も日本に帰ることができていなかったけど、今度の日曜日に一泊だけ家に帰れることになったので、その日を楽しみにしていてね。

じゃあ、何かあったら必ず言うんだよ。”


「えっ!?」

思わず私は道端でそう叫んでしまった。


どうしよう。お父さんとお母さんが帰ってきちゃう!時彦さんのこと、どうしたらいいの!?


ろくに考えは浮かばないまま、私は急いで家まで歩いた。




「おかえり」

「…ただいま」

もう最近は慣れっこになった朝晩の挨拶だけど、私はその時ちょっと緊張していた。それに気づいたのか、時彦さんが首をかしげる。

「どうしたの?」

「えっと…ちょっと、あとでお話が、あります…」

「えっ、うん…」

私が言ったことに時彦さんはなぜかすごくドキッとしたようで、肩を跳ねさせた。

「時彦さんこそ、どうしたの?」

「い、いや、なんでもない…」

歯切れの悪い言い方で玄関を上がった私についてきて、時彦さんも私も、とにかくはリビングにあるソファに座った。





向かい合わせになったソファは私のほうが二人がけ、時彦さんのは一人がけ。なぜか時彦さんはおどおどしながらそこに座った。

本当に、どうしたんだろう。なんだかすごく緊張してるみたい。髪が長いから、顔色はよくわからないけど…。

「えーっと、その…大丈夫?」

すると時彦さんはぴんと背筋を立てて、急に大きな声で叫んだ。

「大丈夫!なんでもない!」

絶対に何かある様子の彼も気になったけど、私はとにかく用件を話そうと思った。

ちょっと言いにくいなあ。だって、思いついた方法、一つしかないのに、時彦さんがちょっとかわいそうなんだもん…。

でも、仕方ない。「祓われるなんて縁起でもない」んだし、お父さんたちに知られるわけにいかないもんね。

「…あのね、来週の日曜日、お父さんとお母さんが一泊だけ帰ってくるって言うんです。だから…その、その日だけは、私、時彦さんとは話せません。ごめんなさい」

私がそう言うと、時彦さんは驚いたけど、すぐに笑った。

「なんだ、そういうことか。なんか…、えっと、すごく重大なことかと思った」

どこかほっとしたようにも見える様子の時彦さんに、私も驚いた。なんだかまるで、考えていたこととは見当が違って安心してるみたい。

でも、それ以上何も言いたがらない時彦さんには、それを突っ込んで聞くことはできなかった。

とりあえず私は、もう一度謝ってからお願いして、ごはんの前に着替えようと、自分の部屋に向かった。