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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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愛しの幽霊さま(6)〜(10)

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第6話 幽霊は眠らない






私が駅で災難に遭った日の晩、トイレに起きて私がそれを済ますと、どこからか誰かがぶつぶつ喋る声が聴こえてきた。

え…?これ、家の中から聴こえる!

私はそれに気づいて怖くなり、「でも時彦さんかもしれないから」と自分を安心させようとして、とりあえず深呼吸をした。


ぶつぶつと何かをつぶやく声はまだ聴こえている。どうやらキッチンからみたい。ダイニングキッチンのドアに近づいてみると、時彦さんの低い声がしたので、ちょっとほっとした。

「幽霊かと思ったけど、知り合いの幽霊だったからほっとした」って…よく考えたらわけがわからないかも。

まあいいや。だって時彦さんは優しい幽霊だもん!

私はドアを開けて様子を見ようと思った。でも、時彦さんの低く唸るようなつぶやきは、どこかとても真剣味を帯びている。

何をずっとぶつぶつ言ってるんだろう。困りごとでもあるのかな。やっぱり自分のことが何もわからないのが不安なんじゃ…。

そう思った私は、ドアの摺りガラスから離れて、端っこの木枠に耳をつける。

立ち聞きなんて良くないけど、夜中にこんなの、変だもの。

しばらくして、明瞭に声が聴こえてくるようになった。


「…いや、でも喋ってた感じ、最近って感じだったし、俺かな…わかんないけど、でも、初めて会った時、いや…でも、だとすれば…」


なんだろう?なんのことを喋ってるの?

私は、重心もなくふらふらとさまようような時彦さんの言葉の意味が掴めなくて、もう少し耳を押し当ててみようとした。

ちょっとつぶやきは止んだかな。それにしても、やっぱり時彦さんも一人きりの時は、自分のこと「俺」って呼ぶんだ…。いいもの聴いちゃったかも。いや、こんなのよくないことだけど!

そう思っていると、キッチンのドアがガチャリと音を立てて私の耳からすぐに離れる。驚いて慌てて顔を上げると、いつの間にか時彦さんがドアの前に立って私を見下ろしていた。

その時の時彦さんの顔は、私を冷たく刺すように強張っていて、しばらく無言で私たちは向かい合っていた。

私は時彦さんと初めて会った時を思い出したように、ちょっと怖くなる。だからすぐに謝った。

「ご、ごめんなさいこんなことして!その、なんか悩んでるみたいに聞こえて、心配で…ごめんなさい!」

頭を下げてそう謝ると、ちょっと軽いため息が聴こえてきた。

「顔上げて。怒ったわけでもないし。焦りはしたけどね」

時彦さんは元の優しい調子で喋ってくれた。

「えっ、焦る?何をですか?」

もしかして、私が全部聴いてたって思ってるのかな?でも、私は少ししか聴いてないから、何もわからなかったし…。

「いや、なんでもないよ」

そう言って時彦さんは私から離れて、テーブルの前にもう一度座る。

「明日も学校でしょ。寝なさい」

時彦さんの顔には切羽詰まったような表情はなく、リラックスしているように見えた。

悩みごと…じゃ、なかったのかな?

私はとにかく、「何も知らない」というのは伝えないと!と思って、こう言った。

「あの、大丈夫です!ほんとにちょっとしか聴いてなかったから、「最近になってからだから」とか、「初めて会った時」とかしか聴こえませんでした!だから、私…えっと…なんのことかわかってないです!立ち聞きしてごめんなさい!」

もう一度頭を下げてから顔を上げると、時彦さんはうつむいて顔を両手で覆っていた。

「どうしたんですか…?」

「いや、大丈夫。本当に大丈夫だから、もう寝なさい」

顔に手をくっつけたまま、時彦さんは首を振ってそう言った。

仕方なく私は自分の部屋に帰ったけど、大丈夫かな、なんかちょっと心配だな、という思いが残った。