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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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愛しの幽霊さま(1)〜(5)

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第4話 うちの幽霊は純情です






その後私たちはだんだんと、お互いの思い出話もするようになっていった。とは言っても、時彦さんは幽霊になってからの話しかできないけど。

「私が学校でひどい点数取ったときにね、親友が大笑いしたんですよ!普通友だちならなぐさめませんか?」

「それは確かに。で、何点だったの?科目は?」

「理科で…32点…」

私は恥ずかしいので、ちょっとうつむいてしまった。すると時彦さんまでくすくす笑っていたけど、こう言ってくれた。

「大丈夫。まだまだ中学生なんだからいくらでも巻き返しが利くし、そんなに言うほどひどくないって」

「そうかなぁ…」

「そうだよ。中学なんてまだまだ勉強のし始めなんだから」

それで私が元気が出て、そのあともまだ話が続いていた時、お風呂のお湯はりが済んだらしく、ピーピーとアラームが鳴った。

「あ、お風呂入らなきゃ」

私がそう言って立ち上がろうとした時、急にそばにあった本棚がガタガタッと揺れた。

「ひゃっ!?」

私が驚いて、おそらく怪異の原因なのだろう時彦さんに目を向けようとすると。

彼はもう、跡形もなく姿を消していた。


…え?どういうこと?なんで急にいなくなっちゃったの?


「あの…時彦さん?」

そう部屋の中に呼びかけても、沈黙が静かに返ってくるだけだった。

私は首をひねって、「まあ後でわけを聞こう」と思い、お風呂に向かった。

ところが、そこから数日間、時彦さんはまた姿を現さなかった。その間私はさびしかったし、「何か変なこと言っちゃったから、気を悪くしたのかな」と心配もした。

でも、その間にお父さんとお母さんから電話もあったし、勉強も家事もしなくちゃいけないし、私はなんだかんだと忙しく過ごしていた。






洗濯機が脱水のために高速回転をしている音は、だんだんと唸るような緩やかな音になって、またアラームが鳴る。

私はそれを待っていて、少しの洗濯物と洗濯ネットを、洗濯機の真上に設置してある乾燥機に放り込んだ。そしてまたスイッチを押す。

家電製品って気味が悪いくらい機能に忠実よね。まあ、急にその日の気分で洗濯機の機能がオーブンレンジに変わっても困るんだけど…。

私がそんな想像をしているタイミングで、リビング入り口にある家の電話が、プルルル、プルルルと鳴った。

私は「お父さんとお母さんかも!」と思っていたから、急いでそこまで走っていって、受話器を上げた。

その日は休日で、ちょうど昼頃だったから、カリフォルニアは夜に入ったところだ。お父さんとお母さんの話では、カリフォルニアは日本とは16時間時差があるらしい。

…どっちが進んでいるのかは、もうよく覚えてないけど。


「はい、石田です」

“まあ雪乃!久しぶりね!良かったちゃんと出てくれて!”

「お母さん、まだ一週間と少しだよ」

私はそう言って、少しの間会っていなかっただけですごく懐かしんで、安心してくれるお母さんに、笑った。

“そうね、そうだけど、なにせ私たちは遠い国でしょう。そりゃ心配なのよ。そっちはどう?何か危ないことはなかった?”


本当に、お母さんってすごいなあ。私はなんとなくそう思った。

でも、そこで私の頭はぴた、と立ち止まる。


…この家、幽霊が出るようになったよね…?


それは…言わない方がいいかな。わざわざ言って心配掛けるほど、悪い幽霊がいるわけじゃないし…。


「うん、大丈夫。何もないよ。ちょっと家事が大変だけど、だんだん慣れてきたし、特に危ないことなんかない」

“そう、よかった。いえね、連絡できなくてごめんなさいね、仕事でさっそくのトラブルが起きて、もうてんてこまい!”

「そうなんだ、大変だね。私は大丈夫」


そんなふうに近況を話してから、私はお母さんにアメリカの話を聞かせてもらったりして、電話を切った。



「大丈夫、よね。話さなくて…」

独り言でそんなふうに確認をして、私は受話器から手を離した。

そんなことのあった次の日に、時彦さんは姿を見せてくれた。