愛しの幽霊さま(1)〜(5)
「ねえねえ雪乃。最近帰りはいつも一人で早く帰っちゃうし、もしかして彼氏とかできた?」
「えっ…」
急に前の席に友だちの舞依が座って、出し抜けにそんなことを言ってきた。それも、けっこう大きな声で。
私はもちろん時彦さんのことを思い出した。でも、彼氏じゃないし!
「でっ、できてないよ!全然!」
すると舞依はにやにや笑いながら私を指さして、くるりくるりと指を回した。
「あやしー。隠してないだろうなー?」
「隠してない!何も隠してないよ!」
私は慌てて両手を振った。
「でも好きな人はいるもんねー」
「まあ…って!いないってそんなの!」
私は、不意に舞依が言ったことに、思わず素直に答えてしまった。
「あー、やっぱり好きな人はいるんだ。へへ、どんな人なの?」
舞依はほとんど騙し討ちとも言える方法で聞き出したことを、さらに掘り下げようとする。
「もう!いないってば!」
「だってさっき「まあ」って言ったじゃん。ねえねえどんな人?どこのクラス?」
そこで私ははっと正気に返る。
時彦さんって、そういえば「幽霊」、よね…。それを好きになったなんて言ったらきっと心配されるし、それに、叶うはずがないのも、私だってわかってる…。
「どしたの?うまくいきそうにないの?彼女いる人とか?」
私がちょっと落ち込んでたことに舞依は気づいたのか、なぐさめるように声を掛けてくれた。
「ん、なんでもない。ほんとに、いないから…」
私のただならぬ雰囲気に舞依は何かを察したのか、「わかった。なんかあったら言ってね」と言ってくれた。
叶うはずないって、わかってる。ちゃんとわかってるから、大丈夫。
作品名:愛しの幽霊さま(1)〜(5) 作家名:桐生甘太郎