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桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
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愛しの幽霊さま(1)〜(5)

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なんとなくもう一度顔色を窺ってみたけど、彼はまだちょっと驚いたままみたいに、目を見開いていた。

「えっと、その…あんまり緊張しないでください。私、この家に住んでいて、石田雪乃っていいます。今、その…中学二年生で…。あなたに興味があるし、あなたも自己紹介してくれませんか?えっと…せっかく同じ家にいるんだし…?」

恥ずかしくて、それに気持ちを見透かされやしないかと思うと緊張して、まともにはしゃべれなかった。でも、それで幽霊さんは驚くのをやめてくれた。

「え?自己紹介?聴いてどうするの、そんなの…」

彼は次から次へと私が話しかけるものだから、半分くらい呆れてしまったらしい。ぽりぽりと頭を掻いている。

幽霊も、頭掻いたら音がするんだなあ。

「あ、えーっと、全然正体がわからないよりは、そっちのほうが、心構えができるし…」

「なんの?」

“気持ちを打ち明けるときの”なんて言えないし、どうしたら…。

「せ、生活の…」

「ふーん」

私がひねり出したなんでもない答えに彼は納得してくれたようで、ちょっとの間、顎に手を当てて考え込んでいた。

私はその姿を見て、またため息を吐く。

彼の目を半分くらい覆う下に向いた瞼から、長いまつ毛が流れている。それに、細面の顔に長い髪が垂れ下がると、少し影があって…大人っぽくてかっこいいなあ…。

しばらくすると彼はやっと顔を上げる。

「茅野時彦。享年24歳」

それだけ。自己紹介は二言だった。

「えっ…それだけ…?」

「他に何を知りたいかわからないし…」

「あっ、そうですよね…。じゃあ、ご趣味は…?」

「幽霊に趣味ってあると思う?」

「あ…ごめんなさい」

私たちの会話はそこで一旦途切れて、とても気まずい空気になった。彼は怒ったりはしなかったけど、よく考えたらすごく無神経な質問をしてしまったし、私は「もう嫌われちゃったかも」と、すごく不安になった。

それに、よく考えてみたら、「自分の家に居るから」って、私が彼のことを根掘り葉掘り聞き出す権利なんか、ない。

「あの、さっきの…すみませんでした。悲しませてしまったかもって…でも、お話できてよかったです。あの、あなたは私のことが邪魔かもしれないけど、その…呪ったりしないでくれると、ありがたいかなって思います…」

私がそう言うと、彼は大きく長いため息を吐いて、ちょっと私の近くまで歩いてきてくれた。

ふわっと彼の腕が上がって、私の頭に伸びてくる。びっくりして目をつぶると、かすかに、ほんのかすかにだけど、頭が温かくなった気がした。

「誰も彼もが、全員を呪いたいわけじゃない。それに、確かに的外れだったけど、人と話したのなんか久しぶりだった…。あんまり怖がらないで」

さっき、あなたの方が怖がってたような気がしますけど。そうは言わずに、私は彼に頭を撫でられていた。