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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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愛しの幽霊さま(1)〜(5)

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水を飲みにキッチンに降りていこうとした時、キッチンに行ってもお母さんはいないし、今夜もお父さんは帰ってこないことを思い出した。

憂うつな気分が押し寄せてきて、なんだか体も重く感じる。それからまた、ため息を吐いた。

お父さんとお母さんが帰ってくるまで、三ヶ月間。頑張ろうと思うしかないけど、やっぱりちょっとさみしいな。今晩は二人に電話をしよう…。

私がそう思いながらキッチンに着いた時。思わず私はびくりと体を震わせ、立ち止まってしまった。


…うそ。なにあれ。


そう思うしかなかった。


うちのキッチンの入り口は摺りガラスが木枠の中にはめ込んであって、向こう側がかすかに見える。そこからは、テーブルの上を斜めに横切り、ちょうどシンク前の様子がわかるようになっていた。でも。


ねえ…、あそこ、誰か居ない…?


私には、シンク前に人が立っているような影が、摺りガラス越しに見えた。


そんな。そんなはずない。だってこの家には今、私しか居ないはずだもの。そんなことありえない。


まさか…強盗!?


動揺して、混乱した私の息は、恐怖でどんどん荒くなっていく。


でも、もし強盗だとしたら、気配なんか感じさせずにすぐに逃げなくちゃ。


私がそう思ってなんとか苦しい息を潜めていると、突然、シンク前にいた人らしき影は、ぱっと消えた。


えっ!?何!?どういうこと!?


私はなんとか足を後ろに引く。それから、どくどくと心臓が胸を叩いて、背中に恐怖が張り付いた状態のまま、死ぬ思いで自分の部屋に帰った。一足一足が怖すぎて、今にも誰かが後ろから襲いかかってくることを想像していた。




その晩、私はトイレに行くのがどうしても怖かった。だからスマホでスピーカー状態にしながら、なるべく明るい曲を選んで音楽を再生して、トイレに向かった。

どうしよう。だってアレ、消えたよね…?強盗は一瞬で消えることなんかできないし、もしかして…。

何度もそう考えて、胸を埋め尽くして体中を支配する恐怖に怯えながら、私はトイレまで歩いていった。

用を足してからドアを開けると、私は死ぬほど驚いた。そして、戦慄した。


声も出なかった。だって、目の前に。


私の目の前には、知らない男の人が立っていた。長い髪を振り乱してボロボロの服を着た、背の高い男の人が。

その人はぼーっと私の前に立ち尽くしているだけだったけど、その目は私を見つめていた。確かに私を見ていた。


なにこれ!?どうなってるの!?誰か!誰か助けて!誰でもいい!誰か!


私はあまりの恐ろしさに、その人を押しのけて逃げることも、トイレの中に後ずさってドアを閉めることもできなかった。


その人は長い前髪で目元は見えなかったけど、私を見てにたりと笑った。その顔は喜んでいるわけでもなく、皮肉めいた表情でもなかった。

でも、私が固まったままで、また暴れ出す呼吸をなんとか鎮めようとしていると、ちょっとその男の人の前髪の向こうが見えた。そして私はまた驚いた。今度はさっきよりもっと。


世にも稀なる美青年がそこには立っていた。


「…かっこいい!」


私がそう叫ぶのと同時に、その男の人はすうっと私の目の前で消えてしまった。


私は胸がドキドキとして、それから背中が汗をかいているのがわかって、しばらくしてなんとか息を吐いた。