愛しの幽霊さま(1)〜(5)
第1話 幽霊さまとの出会い
「はあ…今日も一人かあ…」
私は家のキッチンでため息を吐いた。
今日も食事は一人きり。三日前は違ったけど、三日前にお父さんとお母さんはカリフォルニアに出張になって、いなくなってしまった。
お父さんとお母さんは夫婦一緒に仕事をしていたし、私はもう中学二年生で、近所にお母さんの妹もいるし、出張は三ヶ月の間だけだった。
私は急にアメリカに行くなんて嫌だったし、「三ヶ月の間、家で待っていたい」と二人に伝えた。
すると、お母さんはちょっと残念そうに微笑みながら、「じゃあ少しだけ、待っていてね」と言った。
もちろんお金は送ってもらえるし、私も毎日家事を手伝っていたから、自分のことくらいならなんとかなった。
でも、一人の食事がこんなにさみしいなんてなあ…。
三日目にして、ホームシックならぬ両親シックになってしまった。
私は、ハムエッグとサラダの乗ったお皿の前でトーストをかじって、「フライパン洗うの間に合うかな。これから学校だし…」と、ぼんやり考えていた。
なんでも時間通りに済ませてしまえるお母さんは、やっぱりすごいんだなあ。
そのあと私は朝食を食べ終えて、キッチンの壁掛け時計を見ると、やっぱり八時を回っていた。
「やば!急がなくちゃ!」
これから、バスに少し乗って、学校近くの停留所から急いで…なんとか間に合わなくちゃ!
私は食べ終わったお皿もそのままにして、カバンをひったくって玄関を出ようとした。
でもその時、家の奥から何かの音がしたような気がして、ちょっと振り返る。
「ん…?」
思わず、誰かに問いかけるような声が漏れた。でも、それっきりなんの音もしない。
気のせいかな。そう思って、急いでいた私はドアを開け、朝日の下に飛び出して行った。
学校では、急に両親がいなくなってしまった私のことを心配して、担任の先生が、私の様子や、困っていることがないか、話を聴いてくれた。
さみしいとはやっぱり言いづらいけど、「一人だと手が回らないことがあって…」とは言ってみた。
「そうか…。でも、家事は少しずつ慣れるし、初めは上手くいかなくても、焦ることはないぞ」
先生は職員室の隅でそう慰めてくれた。私はその時なぜか、先生が「じゃあ手伝ってやろう」と言い出して、うちに掃除に来るところを想像していた。
いやいや、それは筋違いってもんでしょ。
「ありがとうございます。ちょっとずつがんばります」
「うんうん」
「ほかは?大丈夫なのか?」
「はい、全然大丈夫です」
「そうか。じゃあ遅くなるから、もう帰りなさい」
「はい、失礼します。さよなら」
「はい、さよなら。また明日」
帰宅してから、私は洗い物をやっと済ませて、送ってもらったお金で買った小さなお弁当を楽しみに、部屋で漫画を読んでいた。
私が好きなのは、少女漫画。ときめいて、ハラハラして、主人公の恋が叶う瞬間までを見守っているのがとても好き。
私もいつかこんなふうに、素敵な恋がしたいなと思って、たまに読み返すちょっと前の漫画の最終巻を閉じる。
「はあ〜、やっぱりいい〜!」
すっかり興奮してしまって、自分の部屋のベッドに寝転びながら、ごろりと横向きになって、漫画を抱きしめる。
何度読んでも感動するなあ。この先生のお話、ほんとに好き!
私がそんなふうに読み終わったあとの余韻に浸っていると、キッチンの方で「カチャン」となにかの音がした気がした。
ん?なんだろ。もしかして、水切りに重ねてあった食器、崩れちゃったかな?そういえば、喉乾いた…。
作品名:愛しの幽霊さま(1)〜(5) 作家名:桐生甘太郎