ほんのちょこっと街ある記 14/松本、長野、富山、金沢、福井
街の姿として、松本市の規模に対して1ランク上の長野県の県庁所在地としての風格がありました。前日の松本市で感じた「歴史ある街のしっとり感」の続きはどうなった…う〜ん少しだけ俗世間に戻されました。
◆富山市(人口 約41万人)
長野駅からは今回の移動で唯一の北陸新幹線「はくたか555号」を利用、富山駅まで約60分で到着です。さて、本当に久しぶりに訪れた富山市の面影として、わずかな記憶の中に「路面電車と富山城」が残っています。
それ以外の姿は全く思い出しませんが、今は富山市の路面電車はLRTとして国内の先駆的事業と言われます。果たして本当にLRT(次世代型路面電車システム)の案件に合致しているかどうかを確認したい部分ありました。
富山駅に着いて、駅前の広場に出た途端に路面電車が駅舎の中に入って来るのに遭遇しました。駅舎の内部がそのまま路面電車の発着点になっているのは驚きで、日本では恐らく富山市だけでしょう。
日本型コンパクトシティーのモデルとして、青森市と共に制定された富山市はLRTが役に立っているのでしょうか。駅舎に入ってきた路面電車は低床路面電車ではなかったので、コンパクトシティー構想もまだ途中のようです。
富山市は金沢市と並んで北陸を代表する都市であるのは間違いなく、駅前広場も広くて雰囲気も都会的です。北陸地方は「日本で住みやすい地域」の順位付けで、福井県・石川県・富山県は常に最上位にランクされます。
我々九州人から見ると、冬は雪が多く寒そうで、交通の便もそんなに良くなさそうなのに…と思いますが。富山駅周辺を歩いてみるとビルも多く、街の姿は人口規模以上にゆったりした空間を感じました。
街の中心に歩いて行くうちに、私が遠い昔の記憶に残っていた「富山城」がある公園を通りかかりました。周辺には官公庁の建物もあり、周囲の木々や枝も大きく、ほど良い木陰を作ってくれて気持ち良く歩けます。
ところが、富山城の敷地に入ったところがちょっと残念、いかにも新しいコンクリート造りの3層天守閣です。あら、45年前もこんなお城だったのか?と少し落胆、お城のそばに行く気もしないままに離れました。
一筋向こうの大通りに路面電車が見えたので、気を取り直して公園を横切ると広い芝生地に出たのです。直系50mほどもありそうな丸い芝生スペースの中央には、でっかい噴水が面白い水の軌跡をみせています。
街の真ん中にこんな遊びのある空間を作れる余裕があるのは、どこの都市にもある訳ではないでしょう。更に通りの向こうには20階建てほどで独創的なデザインの立派な建物があったのが「北陸新報」のビルです。
失礼ながら、北陸地方の一新聞社の建物としては驚くようなサイズで、新聞社だけのビルなら大したもの。その芝生地の噴水を見ながら、しばらく休憩して少し気分が良くなったところで、思い出しました。
さっき富山城に入る手前に市役所があり、展望台を設置している旨の看板があったのを忘れていたのです。少し引き返して、こげ茶色の重厚な色合いの市役所の中に入ると、何だか室内の明かりの具合がおかしい。
何と10階建てくらいの建物の真ん中がズドンと吹き抜けて、まるで大都市の商業ビルの雰囲気です。部屋の窓は中側を向いていて、建物のベースがダークブラウンなので、言わば異空間とも思える景色です。
さてさて、インフォメーションで教えてもらったエレベータで最上階の展望階へ行き、街全体を見学です。前日の甲府市役所でも展望階がありましたが、甲府市より人口が多い分、市街地もそれなりに大きいですね。
その後、帰り際に富山駅の反対側に行ってみた時、仙台市の「杜の都・けやきのトンネル」を彷彿しました。あの杜の都のけやき通りに負けずとも劣らないような「ケヤキのトンネル富山版」がありました。
仙台に比して全体の長さも短く、道路の幅も少し狭いのですが、受ける雰囲気はほとんど同じです。なるほど、富山市は気持ち良い街づくりが割とスムーズに進んでいるような気がしました。
◆金沢市(人口 約46万人)
本当は富山市から高岡市にも少し寄ってみたかったのですが、あまりに密な行動だと思い、自制しました。さて、そんなこんなでやって来た金沢市、45年前の金沢駅前には地下道があり、その先には都ホテルの姿が。
その時の都ホテルのイメージは7〜8階建て、その裏あたりの安い素泊まりの旅館に泊まった記憶があります。
今回、金沢駅の規模が大きいのにも驚きましたが、駅を出てドカンと高層ホテルがあったのも驚きでした。そして何より驚かされるのが駅から飛び出たようなフォルムのデッカイ屋根です。
駅の建物から突き出た屋根とそれを支える独特の直径2mほどの2本の柱は、超特大鼓(つづみ)のようです。駅前から受ける規模を言えば、とても46万人の都市ではなく60万人と言われても肯定するような姿です。
交通量も多く、人の往来もザワザワしていて「古都の街のしっとり感」がどこかに飛んだようでした。そうです、もはや古都の街を感じるどころではなく、私本来のビル街の姿を見る街歩きの気分に戻りました。
予想以上に都会的な金沢市は、多くの人口を抱える衛星都市とは全く逆で「本来の地方都市の形」でもあります。それは、街から受ける感覚として60万人の鹿児島市にも匹敵するような準政令指定都市にも見えました。
路面電車こそありませんが、ひっきりなしに往来するバスには乗客も多く、若い人の姿も印象的です。おおよそ2kmほど先にある繁華街の香林坊まで歩きましたが、都市の形が続いていて飽きませんでした。
ところがその日は既にかなり歩いていたので、近くの金沢城公園や兼六園周辺では時々休みの状態でした。金沢城の石垣を見た頃には「ちょっと休憩してビールでも…」と思ったものの、駅まで戻ることにしました。
予約していたホテルが駅に近かったので、ホテルで一段落して食事に行くことを考えるとビールは後回しです。結局、兼六園などに立ち寄る元気も失せて、メインストリートまで戻って駅方面へ歩き始めました。
4〜5分も歩くうちにバス停が1つ2つと過ぎて行き、ついに歩くのを諦めてバスに乗ることにしました。何しろ、ビル街の人通りが多い歩道を疲れた体で歩くのは、さすがに止めることにしたのです。
ところが乗ったのは良かったのですが、金沢市内を走るバスの多くは一般的な交通系ICカードが使えません。北陸交通(だった?)と言うバス会社が発行している自社特定のICカードと現金が使えるようでした。
混み合っていて、駅周辺までしばらく立ったまま乗車しましたが、田舎ではないことを感じさせられました。たまたま終点が金沢駅で、幸い途中のバス停で降りずに済みましたが、そんな時に小銭を出すのも大変ですよね。
そのバスは金沢駅の裏側(反対側)のバスターミナルまで行きましたが、そこも本当に広く公園のようでした。それにしても金沢市に行くまでは市の人口を考えたら、大した規模の都市ではない…と侮っていたかも知れません。
作品名:ほんのちょこっと街ある記 14/松本、長野、富山、金沢、福井 作家名:上野忠司