虹の根元(青い絆創膏番外編)
罪悪感。それは、大きくなり過ぎれば、自罰となる。隆康は、子猫の一件があってから、少しずつ周りの人間とのふれあいを、自分に禁じるようになった。
それは無意識であったが、だんだんと隆康は褒められることを好まない子供になって、高校進学の時にも、前述したように、自分への教育の機会を進んで放棄しようとした。そんな彼の中にあったのは、ただ“幼い頃、自分は子猫を殺したのだ”という、罪悪感であった。
高校一年生となった隆康は、必要以上に謙遜をしたり、自分の健康に無頓着であるばかりか、むしろけなされることをわざとしてみせたり、自分の健康を害することを厭わなくなった。それはたった一つの出来事に端を発する自罰の道であり、彼にとってそれは“義務”であった。
誰にも言えずに苦しんでいた頃を抜けて、隆康もものを考えるようになってくると、子猫の話を誰かに言うという選択肢は、ますます考えられなくなった。
“きっと誰に話しても、なぐさめられる。あの子の命の分を罰してくれる人間なんかいやしない”
思い詰めて思い込んで、とうとう隆康は誰に対しても心を閉じるようになっていった。常に胸にあり続ける子猫のことを誰にも話さないので、結果として隆泰は、誰とも本当の気持ちで向かい合うことができなくなってしまった。
そうして彼は自分を恥じるあまりに教室に行くことができなくなり、しかし理由は誰にも話さなかった。そんな時に彼が見つけたのが、跡見凛である。
その日の夕方、校舎から出て門を歩く途中、何気なく隆康は校舎を大きく振り向いた。すると、屋上で誰かが起き上がるのが見えたのだ。それは女子生徒のようで、彼女は長い髪を風になびかせて、なぜかとても悲しそうな顔をしていた。その様子が遠くからでもわかった時、隆康は、“飛び降りるんじゃないか”と思った。
その女子生徒はそんなことはせずに校舎内へと引き返して行ったが、彼女の悲しそうな表情は変わらなかった。
隆康にはわかったんだろう。彼女が誰にも話せないことで悲しんで、孤独で居ることに。そして、自分に似通ったものを感じて、強い興味を持った。
作品名:虹の根元(青い絆創膏番外編) 作家名:桐生甘太郎