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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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虹の根元(青い絆創膏番外編)

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子供二人は青ざめた。子猫が分け入った葦の林の先には、もちろん小川がある。水の中なのだ。

二人はそれでもまだ、子猫が無事に出てくることを期待して、十分ほどは前のめりになって、葦の中を見つめていた。当然、奥深くに居るだろう子猫の姿は見えない。声も聴こえない。がさがさと葦が擦れる音すらなかった。


「どうしよう…」

子猫を連れ出した子供は弱気な声を出して、今更自分のしてしまったことを怖がっていた。隆康は葦を見つめて、何かを考えているように見えた。

「ハサミ、持ってきて」

「ハサミ…?」

「切るんだ、これ。そうすれば見つかる」

隆康が提案したことに、もう一人の子は元気が出たのか、「うん、そうだね!わかった!」と言い、自分の家まで駆けて行った。

まもなくして子供が自分のハサミを持ってくると隆康はそれを受け取り、葦の原をハサミで少しずつ刈り取りに掛かった。でも、それにはとても長い時間が掛かるとは、隆康も知らなかった。

ハサミで何本かまとめた葦をなんども切り落としていると、隆康は握っている手が痛くなってきて、途中でやめてはまた切りに掛かる。そんなことを何度も繰り返しているうちに、だんだんと日が暮れてきてしまった。時刻はおそらく、夕方の五時半は過ぎていただろう。

初めは隆康の手元を必死の思いで見つめていたもう一人も、だんだんと気を張り詰め続けるのに疲れてきたのか、自分も葦を引っこ抜こうとしてみたり、子猫を呼んでみたりした。

それから、辺りがどんどん暗くなってくると、もう一人の子供は「ねえ、大丈夫じゃないかな…」と気弱な声を出し、無我夢中の隆康の肩を引いた。

「大丈夫じゃないよ。まだ出てきてない」

「でも、もうこんなに暗くて、僕、帰りたいよ…」

それを聞いて隆康は一瞬怒ろうとしたが、あんまりにももう一人の子が怖がっているのがかわいそうに思えたのか、一度手を止めた。それでもう一人は、さらにこう言う。

「猫は…大丈夫だって。自分から水に入るわけないし、怖くて出てこないだけかも…」

隆康はその言葉に決して「うん」とは言わなかったし、何度も葦と友達の顔を見比べては迷っていた。


結局、隆康は「怒られちゃうし、早く帰ろう」と言われて林の斜面から引きずられて行ったが、このことは彼の頭から一生離れなかった。




その晩家に帰って「帰りが遅い」と叱られてから、隆康はずっと子猫の様子を思い浮かべていた。

“あの猫はきっと死んでしまった”

そのことだけが隆康の胸を絶えず責めて、猫が葦の中で水に捕らわれて溺れ死んでしまった様子や、冷たい水の中で猫の体がどんどん冷えていくことなどを想像した。

もちろんこれら隆康の想像が本当だったかは、確証がない。それに、もう一人の子の言う通りに、人間たちに怯えていただけで、あとになって猫は出てきたかもしれない。隆康も、“そうだったらどんなにいいだろう”と考えた。

“でもきっと、死んでしまった”

多分、隆康は猫を黙って連れ帰ろうとした罪悪感によって、結末が悪いものであると信じてしまったんだろう。“自分たちが連れ出さなければよかったのだ”と考える気持ちが、どうしても予想を悲劇に導いたのだ。

そして隆康は、“自分は子猫を勝手な理由で殺してしまったんだ”と思い込み、それを誰にも言えずに過ごすことになる。