虹の根元(青い絆創膏番外編)
その後、名前も知らない彼女を待つために、保健室登校の合間に何度か屋上へと上り、やっと昼休みを選んだ時に、彼女、跡見凛と初めて話をした。
凛が傍らに寝転んで空を眺めるのを見て隆康は幸福に思ったが、その時彼の中で、強烈な罪悪感が暴れだした。
“幸福なんて、僕にはいらないのに!”
隆康は今度もそう思い込んで、黙って校舎内へと逃げ込んだ。でも、彼は凛の寂しそうな影を忘れられず、ついに二人で出かけようと決意する。
隆康が選んだコンサートが、凛もちょうど行きたがっていたものだったのは、まったくの偶然だった。でもその偶然を隆康は喜び、生まれて初めての恋に対するささやかな祝福に、感謝した。だけど、それは彼にとって地獄の蓋を開けるのと同じことだった。
凛と別れて家に帰宅し、父と母に帰宅の挨拶をしてから、彼はこう思った。
“こんなものを叶えちゃいけない。僕はもう行かなくちゃ”
そうして遺書も書かずに、誰にも何も告げずに、自分に過ぎた幸福に対して勘定を払うように、ひっそりと逝ってしまった。
この真実は誰も知らない。隆康の母親は泣き暮らし、父親は毎日それをなぐさめては、生きた心地のしない日々を送っている。
子猫が結局どうなったのかも、誰も確かめていないのでわからない。
隆康が死ぬ必要などなかった。絶対になかった。だけど彼は、もしかしたら勘違いだったかもしれないことのために、孤独になって思い詰め、死んだ。
虹の根本の話を知っているだろうか。そこでは、亡くした動物と出会えるという。自分が死んだあと、近しかった動物は虹の根本で待っていて、自分を迎えてくれるというのだ。
隆康は、虹の根本で待っているかもしれない子猫に、会えたのだろうか。
End.
作品名:虹の根元(青い絆創膏番外編) 作家名:桐生甘太郎