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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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虹の根元(青い絆創膏番外編)

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「隆康。もう起きなさい!遅刻しちゃうわよ!また遅くまでゲームしてたの!?」

彼はその朝、すでにもう十四歳になっていた。その頃の彼は、内心が荒みきって生活は乱れ、しかしそれは両親からは見過ごされていた。隆泰のことを心配する母親を、「思春期にはよくあることさ」などと父親がなだめていたのだ。

「ん…おはよ、母さん…」

隆康は母親に布団を剥がされて、やっと起き上がる。彼は、Tシャツと、室内着にしているゆったりしたハーフパンツの姿だった。


母親は家族のためにバランスの取れた食事を用意していて、隆康はキッチンに降りてそれを食べる。

キッチンの外からは、白無地のカーテンを通り抜けた朝の光が差し込んでいた。

隆康の家は持ち家で、少し小さいながらも、立派なマイホームだった。それは隆康が十歳くらいの頃に、同じ市内から移り住んだものだ。


「母さん、醤油取って」

「自分でやってちょうだい。母さんちょっとお皿を洗ってるから」

「はーい」

広いダイニングで、カウンターキッチンに合わせて据えられたテーブルの椅子から、隆康は少し立ち上がる。そして、カウンターに並んだ調味料の中から醤油を選び、また座り直した。

母親は黙々と、隆康よりずっと前に家を出た父親の分の皿を洗っている。隆康は、醤油を目玉焼きに垂らして、まずはサラダに手をつけた。その時、隆康は考えていた。


“あの子は、もう食事なんかしない”

“美味しい食事も、暖かい家も、もちろんない”

“僕はこんなものを受け取っちゃダメだ”

“僕はあの子を、殺したのだから”


隆康の考えていた中には、決して看過できないものがあった。でも彼は、その場に居た母親に何も話すことはなく、食事を食べ終えたら、学校に出かけてしまった。





隆康には、友人は居なかった。いや、あえて作らなかった。誰に話しかけられても不機嫌そうな顔を作って無愛想な返事をして、そのうちに誰も彼もが、隆康には目もくれなくなった。

中学時代をそんなふうに過ごしていたから、担任教師は少し心配そうだった。でも、幸いにも隆康は嫌がらせを受けたりすることもなかったので、そのまま卒業してしまった。






高校に入学するかしないかで、一度隆康の家に騒動が起こりかけたことがある。



「僕、高校なんか行かなくていいよ」



隆康はきっぱりとそう言って、夕食の席を立った。隆康の席にはまだ食事が
たくさん残されていたし、彼の言ったことも、両親を驚かせた。

「え、どうして!?ねえ、待って隆康!こっちへ来て、話をしましょうよ!」

母親がすぐに彼を引き止めたが、隆康はそれを振りほどく。

「いいんだ。そんなに大したことじゃないよ」

「大したことよ!ちゃんと理由が言えないのなら、行かないとも決められないほどよ!」

一度は食事の席を去ろうとしたが、隆康は母親にそう言われたことで、こう言い直した。

「わかった。行くよ。実は…学力にあんまり自信がなかっただけだから…」

その時の隆康の様子は、まったくもって「理由を言うのが恥ずかしかったのを、ついに言わされてしまった子供」そのままだった。でも、事実はそれとはまったく違った。


隆康は、自分に対する幸せを拒否するため、高校進学を拒んだのだ。

彼は、高校に行かずにすぐに働き始めて、早く世の辛酸を舐めたいと考えていた。一体それほどになるまで、何が彼を駆り立てたのだろうか。“あの子”とは誰のことなのか。時間を初めに戻し、すべてをここに書くことにする。