虹の根元(青い絆創膏番外編)
おそらく彼の理由は誰も知らないに違いない。彼の両親ですらも、思い当たるものなどなかっただろう。彼は誰にも話さなかったのだから。ただ一人を除いては。それも、「話した」という体ではない。彼の言葉を借りれば、「共犯者」と呼ぶことができるかもしれなかった。
「ねえ…もう帰ろうよ」
木の葉たちのさざめきが隆康を急かし、林の中の不気味な空気が、幼い隆康を恐怖させる。すぐにも家に帰りたいはずだった。
なのに隆康はそうせず、じっと黙ったまま、そこに留まりたがった。
幼い子供が、暗くなっていく林への恐怖を抑えつけてでも、一体何に執着していたのだろうか。それは、この前の場面を話さなければ誰にもわからない。でも、今は隆康がそうまでして何かをしたがっていたということだけを記憶してほしい。
あの場面は何度も隆康の頭の中で繰り返され、そのうちに執着から呪いに変わり、とうとう隆康の命を奪ってしまった。あの幼い記憶に、その「わけ」はあったのだ。
作品名:虹の根元(青い絆創膏番外編) 作家名:桐生甘太郎