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端数報告4

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刑事部長の顔にズームしアップで捉える。この表情と、横で見ている記者の目に注目。
 
そして構図は元に戻るが、
 
画像:会見5 記者「今度はそれに輪をかけたものであるかと」
 
と茶服の記者は続ける。正しくは、
「今度はまあ、それに輪をかけたもんであるかという、そこらへんの感触は、部長個人としては……」
だ。刑事部長はウンウンと相槌を打ちながらに聞いているが、
 
画像:会見6 刑事部長「全くわかりませんがその線も捨てられない」
画像:会見7 刑事部長「どれも推定の範囲を出ないがその線も捨てるわけにはいかない」
 
と答える。正しくは、
「あー、全くわかりませんがぁ、その線もぉ、捨てられないということですよね? どれも推定の範囲を出ませんがぁ、その線もぉ、捨てるわけにはいかんというゴニョゴニョゴニョ……」
といった調子なのだが。
 
刑事部長は最初は詰め寄る記者達にタジタジといった感じになりながらも、
「まあまあ。そう結論を急がずに」
とでも言いたげに応じているように見える。おそらく火が消えたばかりというところで、捜査はこれから。まだ何もわかってないのだ。「解説して」と言われても、何を解説できると言うのか。
 
そう言いたげなようすに見える。しかし、
「解説して」
の文句は、テロップからは省かれている。
 
解説できることなんかなんにもないということを解説しようとしたところで、茶服の記者が割り込んできてネチッこい言葉を投げかけてくる。まわりには無数のカメラ。そして、
 
画像:会見4
 
こんな目をしたやつら。それが何十人も自分を取り囲んでいる。
 
この状況でまともな精神状態を保てる者がいるだろうか。刑事部長は、
「あー、全くわかりませんがぁ、その線もぉ、捨てられないということですよね? どれも推定の範囲を出ませんがぁ、その線もぉ、捨てるわけにはいかんというゴニョゴニョゴニョ……」
と言ったが言ってしまったのだ。言わされてしまったのだ。茶服男とその同類の者達に。そして失言に気づいて「しまった」と思っている。
 
ようにおれには見える。前にほんとはこう見せようとして間違えたのだが、
 
画像:会見8 会見9
 
特にここだ。18分20秒のところで、
「そこらへんの感触は、部長個人としては……」
と茶服は言ってるのだが、それはテロップでは省かれている。
 
〈自分自身の考え〉でない。〈ハイエナ記者が予断で決め付けていること〉を〈刑事部長としての自分の個人的な感触〉ということにさせられて無理に言わされてしまったことに気づいて「しまった」と思っているようにおれには見える。
 
刑事部長は本当は、
「今の段階で言えることは何もない」
と言って突っぱねなければならないところだったのだ。ここは。本当は。この段階で言えることは本当に何もないのだから。しかしカメラに撮られ、テレビで流され、ビデオテープの記録として残るかたちで言質を取られた。
 
それに気づいて「しまった」と思っているようにおれには見える。「そこらへんの感触は、部長個人としては……」と目の前にいる男は言うが、違う。こいつは、警察幹部が日本警察を代表して、
「その線が濃厚だ」
と言ったことに必ずする。そうと気づいて「しまった」と思っている。
 
ようにおれには見える。そして実際にそうなった。彼の言葉は大阪府警の刑事部長の言葉のゆえに日本警察が充分な根拠のもとに推論し発表したものとされた。そしてそういうものとして、NHKが四半世紀後に制作するスペシャル番組にも使われ、ケーブルテレビでさらにその十年後に流される。
 
が、刑事部長は実のところ、無関係なアカウマの線もこのとき考えていたのじゃないか。放火でいちばん多いのは、そんなやつなのだから。自分がそれまでムショ送りにしてきたアカウマどもの顔を思い浮かべていたかもしれない。しかし、ここでこう言ってしまったために、本来ならば少しは追ってみるべきだったそちらの線が捨てられた。
 
のではないのか。そしてまた、気になるのが茶服の記者だ。ひょっとしてこいつ、
 
 
   加藤譲じゃないのか?
 
 
とおれは見て思った。口元が似てる気がするし、再現ドラマで上川がしているのと髪型が同じだ。「何が事実やったか、何が真相やったか――」と語るのちの加藤とも、声や口調が似てると感じる。
 
画像:ミスグリ加藤 茶服の記者 ちょっとでも肉付け
 
並べてみると、こう。だから、こいつ加藤じゃないのかな、と思うのだけどどうなのだろう。違っていたらごめんなさいだが、いずれにしても、警察が無関係なアカウマの線を追うことはなかった。
 
番組のナレーションが言った、
《捜査本部はその後、社長の誘拐と一連の放火は同一犯によるものと断定。カネ目当てに加え、恨みという線でも捜査を始めた》
からだが、しかし、何をもって誘拐と同一犯と断定したのか。
 
その説明を番組はしない。ウィキの方にもそれについての言及はない。このふたつにないだけで、それなりの根拠がどこかにあるのかもしれないが、ひょっとして、
 
画像:四方修
 
当時の大阪府警本部長であるこのおっさんだ。こいつが断定したもんだから断定となっただけじゃないのか。
 
画像:四方修(いやそんなのないよ)
 
そうか? 合同捜査体制自体は社長誘拐直後からあり、合同捜査本部も出来た。が、〈兵庫−大阪〉の順で、主体は兵庫県警にある。江崎グリコ社長の宅が兵庫県西宮にあり、事件はそこで始まったからだ。
 
そして犯人が新聞社に送ってきた手紙には、
《県けいの 本部長でも さらたろか》
と書かれていた。「県警」と言うからには兵庫県警のことであり、大阪府警本部長のことではない。
 
おっさんはそれが気に入らない。他の県警本部長でなく、自分が犯人に攫われたい。じゃなくて、捜査の主導権が兵庫にあるのが気に入らない。
 
画像:四方修(そんなバカなことあるわけない)
 
嘘つけ。しかし、放火は大阪で起きたのだ。だから大阪府警の事件だ。監禁の場所も大阪だったのだから、最初からみんな大阪の事件なのだ。
 
よって解決したならば手柄は自分のものである、という、ただそれだけの考えで放火は同一犯によるものだと断定した。だろう。そうに決まっている。
 
画像:四方修(そんなの全然ダメだ)
 
へーえ、そうですか。しかしおれとしても、この放火に関しては同一犯でないという確かな根拠があるわけでない。おれは彼らを凶悪犯と思いたくない人間なので、凶悪犯でないことにしたい。そのため〈無関係なアカウマ〉の線を無理矢理出している面があるのは否めない。それをお断りしたうえで、それでも、と考えてみよう。
 
一連の事件は〈劇場型犯罪〉で、犯人達は〈愉快犯〉だった。だから放火もやる、というふうに一般には見られている。
 
しかしおれの考えは〈プロレス型犯罪〉で〈陽気でノリのいいやつら〉という、同じようでも全然違うものなので、放火というのはそぐわない。要するに〈彼ら〉が凶悪犯となると考えが合わなくなる。浅田次郎・著『初等ヤクザの犯罪学教室』には、さっき見せたページの後に、銀行強盗の話として、
 
   *
 
作品名:端数報告4 作家名:島田信之