端数報告4
「『西宮けいさつにはナカマはおらん』というのは、やっぱり西宮警察の中に仲間がいるということだ。やはりそうだと思っていた! 絶対そうだと思っていたんだ。ホラ見ろ、やはり! ホラ見ろ、やはり! オレが言っていた通りだろうが。オレの考えに間違いあるわけがない。絶対間違いあるわけないんだ!」
といった按配だ。事件を語る人間がそろってこんな調子なのは皆さんご存知じゃないでしょうか。
だが、バカらしい。実際に警察内部で犯人の仲間探しが行われたらしいのだが、まずそもそも、警察内部に仲間がいる者達が、勝久氏誘拐時に寄越した最初の手紙に「ナカマがいる」と書いたりするか?
画像:最初の手紙
これはフカシだ。そう断じるべきだろう。それを真に受け、「仲間がいる仲間がいる」と世が騒いでいるもんだから、〈彼ら〉はあきれて二度目の手紙に「おらん」と書いた。
そう判じるべきだろう。この手紙に関してのおれの考えをまとめよう。
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これは事態が彼らが期待したものとかけ離れた方向に進んでいるのに困り、そして愚かな警察やマスコミにあきれて送ってきたものだ。道頓堀のネオン看板はまったくニュースに映らないし、映ってもまるでキリストの磔像。
「これは何かの祟りじゃあ〜〜っ!!」
という調子で、識者ヅラした者らが言うのは、
「江崎グリコという会社は過去によっぽど悪いことをしてたんでしょう」
という話ばかり。
だからグリコの会社の中に仲間がいるし、警察の中にも仲間がいるという話になる。バッカじゃねえか。だからもう、それにホトホトあきれた末に書いた文だとおれは思う。
実はこのとき、彼らはたとえ捕まってもいいくらいのつもりでいた。動機がわかればたいした罪になるまいし、ムショの中で英雄になれることは確実だ、という考えだ。ウィキには後にハウス食品を脅迫した際、手紙に、
《江崎グリコの江崎勝久社長を拉致監禁したときに社長の声を吹き込んだ録音テープが同封されていた》
という記述があるが、これはおそらく捕まったとき、確かに自分達がやったと証明するため録音したものではないか。
彼らは捕まってもよかった。この手紙はほとんど本音を書き綴ったものだったのだ。
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というところである。しかしその2日後に、放火が起きて事件は大きな転換をする。再現ドラマはこのときに、
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記者A「(警察は)グリコに関係する人間を、相当洗っとるようです。事件解決も近いな」
画像:NHKスペシャル『グリコ・森永』番組タイトル
なんてメシを食いながら言ってるところに連絡があり、
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加藤「グリコが燃えとる」
画像:NHKスペシャル『グリコ・森永』番組タイトル
と言う。ウィキはこれを、
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江崎グリコ本社放火事件
1984年4月10日20時50分頃、大阪府大阪市西淀川区の江崎グリコ本社で放火が発生。火元は工務部試作室であり、火は棟続きの作業員更衣室にも燃え移り、試作室約150平米は全焼。
21時20分、本社から約3km離れたグリコ栄養食品でも車庫に止めてあったライトバンが放火される。こちらはすぐに消し止められた。犯人はガソリンの入った容器に布を詰めたものに火をつけていた。
出火の直後には、帽子を被った不審な男がバッグを抱えて逃げるのが目撃されている。
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こう書いている。NHK『未解決事件』は、
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ナレーション「大阪市内にあるグリコ本社の一画が放火され、ひと棟が全焼。その直後、3キロ離れた子会社でも会社のクルマが放火された」
(事件現場らしきところで)記者団のうち一名「誘拐犯との関係をちょっといろいろ解説して……」
大阪府警刑事部長「全くわかりません。それは全く」
別の記者「これまでかなり、そのう、脅迫文でえ、そういうことについてですねえ、今度はまあ、それに輪をかけたもんであるかという、そこらへんの感触は、部長個人としては……」
刑事部長「あー、全くわかりませんがぁ、その線もぉ、捨てられないということですよね? どれも推定の範囲を出ませんがぁ、その線もぉ、捨てるわけにはいかんというゴニョゴニョゴニョ……」
ナレーション「捜査本部はその後、社長の誘拐と一連の放火は同一犯によるものと断定。カネ目当てに加え、恨みという線でも捜査を始めた。事態を重く見た警察庁は一連の事件を広域重要一一四号事件に指定した」
画像:NHKスペシャル『グリコ・森永』番組タイトル
こうだ。グリ森事件の犯人達は凶悪犯、〈劇場型犯罪〉で〈愉快犯〉だから大それたことが平気でできるし無差別に人を殺すこともできる――というイメージは、この件によるところが大きいと言えよう。
おれも事件当時は中学を卒業して高校に上がったところだったが、この放火で初めて「え?」となった記憶がある。それまではニュースで一応知ってはいてもさほど関心は持ってなかった。
社長が誘拐された時にはその金曜に迫っていた『装甲騎兵ボトムズ』の最終回がどうなるのか以外なんにも頭になかった記憶がある。放火で初めて新聞を見たが、何がなんだかサッパリわからん。その後の展開も、当時はまったくついてけなかった。
が、今にNHK『未解決事件』を見て思う。これ、本当に〈彼ら〉のやったことなのかな? 無関係なアカウマがやったことだったりしないか?
アカウマ――つまり、放火魔である。〈放火魔〉と言ってもピンキリだが、どちらかと言うと道端のゴミや何かにライターオイルでもかけて、火をつけるような類のやつ。つまり、〈キリ〉の方である。この放火はひょっとして、そんなチンコロがやったんじゃないか?
と思った。つまり〈彼ら〉と関係のない、その辺にいくらでもいる小物のひとりが、
「これは何かの祟りじゃあ〜〜っ!!」
な事件報道に刺激を受けてやったのじゃないかと。刑事部長の会見場面をカメラで撮って見せると、
画像:会見1 記者「誘拐犯との関係は?」
テロップではこうなっているが、正しくはこう。
「誘拐犯との関係をちょっといろいろ解説して……」
画像:会見2 刑事部長「全くわかりません それは全くわかりません」
正しくは、「全くわかりません。それは全く」で、次の「わかりません」は言わず、その後に、
「それはこれから調べるところでありまして、今の段階で言えることは何も……」
とでも続けようとしているようすなのだが、そこに、
画像:会見3 記者「これまでの脅迫文でそういうことについて」
言葉を遮って、記者が質問してしまう。それも正しくは、
「これまでかなり、そのう、脅迫文でえ、そういうことについてですねえ」
だ。はっきり言って、かなりねちっこい口調。
しかもこれが横に映っている茶色の服を着た記者で、その前に「誘拐犯との関係をちょっといろいろ解説して……」と言ったのとは別の記者なのである。この記者は、刑事部長が他の記者の質問に応えているところに横から割り込んでいるのだ。
ここでカメラは、
画像:会見4