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端数報告4

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彼らは銃で脅したり、縄で縛ったりといったことはしても、それ以上の暴力を決して好む者達でない(寝屋川の件で抵抗する男を殴ったりもしたようだが、これも抵抗されたからだ)。事件は春のお彼岸に起きたが、それはおそらく氏の健康を一応気遣ってのことではないか。
 
つまりそれより前の時期では、監禁場とする倉庫が寒いと考えたわけだ。そしてこれより後になると、学校が春休みになったりする。
 
NHK『未解決事件』はその場を、
《普段、地元の人間もほとんど出入りしない》
と言うが、子供は来るかもしれないじゃないか。当時は団塊ジュニアというのが小学生だった時代で、子供の数は非常に多い。春になれば虫でも採りにやってこないと限らぬのでは?
 
彼らはそう考えた。事件が起きたのは18日だが、その翌日が月曜日。
 
画像:事件翌日の新聞 NHKスペシャル 未解決事件File.01 グリコ・森永事件 劇場型犯罪の衝撃

 
つまり起きたのは日曜の夜だ。勝久氏の保護は3日後の21日。
 
それは春分の日ではないのか。いや、1984年の春分の日が何日か知らぬが、いずれにしても、2日間だけ監禁しそこで消える算段で、その通りに実行した。
 
彼らとしてはそれで充分だったからだ。10億プラス金塊というのは「用意できるはずない」と考えた額で、指定の場所に行く気もなかった。
 
勝久氏に「逃げたら家族を殺す」と言ったのはそう言っておけば繩が解けてもすぐには逃げないと考えたから。自分達が安全にその場を去るためだけの脅し。
 
しかしいずれ空腹などに耐えかねて外に出ることになる。彼らはそう考えていて、その通りにうまくいった。氏はおそらく逃げようと思えばすぐに逃げられたのを十数時間も頑張ったわけで、犯人達にまんまと乗せられたわけではあるが、しかしむしろたいしたものと言うべきだろう。
 
   * * * * * * * * * *
 
――と、こんなところかな。そしてここで、仮面ライダー気取りの男、〈ミスター・グリコ 加藤譲〉が話に割り込んでくる。ボックス閉鎖の憂き目に遭った逆恨みをぶつけた記事を書き始め、ウィキにある、
 
   *
 
元グリコ関係者説
江崎家やグリコの内部事情に犯人グループが通じていたことから出た説である。
 
具体的には江崎誘拐の実行犯が江崎の長女の名前を呼んだこと、江崎誘拐における身代金要求の脅迫状で社長運転手の名前を名指ししたこと、世間一般にほとんど知られていないグリコの関連会社を知っていたこと、江崎を水防倉庫に監禁した際に江崎に着せていたコートが戦前から戦中にかけての江崎グリコ青年学校のものと似ていたこと、グリコがすぐ10億円を用意できることを知っていたことなどである。ほかにも人質を取ったり放火したりしたことや、脅迫状ではグリコ以外の会社の社長を「羽賀」「松崎」「浦上」「藤井」と苗字で書く中で江崎社長のみ「勝久」と名前で書いていることなど他の企業を脅迫したときにはない特徴があることから、グループの中にグリコに怨みを持つ者がいるのではないかと言われる。
 
他にも53年テープの存在もグリコへの怨恨が原点にあるという説の補強材料になっている。
 
   *
 
こんな話のベースを作った。
 
だがこんなもん、どこが具体的だと言うのか。再現ドラマの中でも仲間とそんな話をしていた(「犯人は江崎家のことを相当詳しく調べとるようですね」「グリコの内情をよう知っとる人間かもな」)けれど、長女の名前を知っていれば江崎家のことを詳しく知ってることになるのか。勝久氏を「勝久」と呼んだらそれは勝久氏に恨みを持ってることになるのか。
 
トレンチコートにスキー帽の姿で殺さねばならないほどに? 身勝手な怨恨で社会を恐怖のズンドコに陥れたのは加藤達だったのじゃないのか。人々はこの男らの視点でもって事件を見せられ、この者達が肉付けした犯人像を見せられてきたのではないか。NHK『未解決事件』はグリコのネオン看板を、さっき見せたのとは別に、
 
画像:斜めに傾けたもの
 
こんなふうに見せたりとか、
 
画像:手持ちブレ 手持ち揺れ
 
こんなふうに手持ちのカメラでブラしたり揺らして撮って見せたりする。スタンレーの魔女は今も笑っているに違いない。
 
〈かい人21面相〉は今もこの日本社会を笑っているに違いない……番組はそう言うが、果たして本当にそうだろうか。
 
今の社会が良くないのは、みんなあいつらのせいなのだ……番組はそう言うが、果たして本当にそうだろうか。
 
画像:吉山利嗣1 吉山利嗣2
 
そう見せようとしているが、〈ミスター・グリコ 加藤譲〉や、この〈ぐっさん〉の個人的な怨恨を押し付けられているだけじゃないのか。おれはそんな疑問を感じる。事件の第二段階は、ウィキによると、
 
   *
 
4月8日には、犯人グループから大阪の毎日新聞とサンケイ新聞へ手紙が届く。マスコミ宛に世間一般への公開を前提とした初めての挑戦状だった。手紙には無署名で封筒の差出人名は江崎の名前を使っていた。
 
    *
 
こうある(ただし、4月2日に別の脅迫状が届いた話があるがこれは便乗犯だと思う。詳しくは先に置いたリンクを押して読んでください)。NHK『未解決事件』はこれを、加藤がいる読売の〈仮ボックス〉には来なかったので、ジリリリンと電話が鳴って、
 
   *
 
加藤「はい加藤」
相手「挑戦状のこと聞いたか」
加藤「いま聞きました」
相手「そっちには来てるか」
加藤「こっちには来てませんよ」
相手「なんでウチには来(け)−へんねん!」
加藤「そんな知りませんわ!」
 
画像:NHKスペシャル『グリコ・森永』番組タイトル
 
こう描く。手紙の内容はこうだ。
 
   *
 
 けいさつの あほども え
 
 おまえら あほか
 人数 たくさん おって なにしてるねん
 プロ やったら わしら つかまえてみ
 ハンデー ありすぎ やから ヒント おしえたる
  江崎の みうちに ナカマは おらん
  西宮けいさつ には ナカマは おらん
  水ぼう組あいに ナカマはおらん
  つこうた 車は グレーや
  たべもんは ダイエーで こうた
 まだ おしえて ほしければ 新ぶんで たのめ
 これだけ おしえて もろて つかまえれん かったら
 おまえら ぜい金ドロボー や
 県けいの 本部長でも さらたろか
 
   *
 
と、この通り警察の愚弄に終始してるものだが人は見たいところだけ見て、そこにだけ肉付けをする。
 
   江崎の みうちに ナカマは おらん
   西宮けいさつ には ナカマは おらん
 
ここだ。ここしか事件スズメが見ることはなく、ここだけクチバシで突っついてピーチクパーチクさえずりたてる。
 
「『江崎のみうちにナカマはおらん』というのは、やっぱり江崎の身内の中に仲間がいるということだ。やはりそうだと思っていた! 絶対そうだと思っていたんだ。ホラ見ろ、やはり! ホラ見ろ、やはり! オレが言っていた通りだろうが。オレの考えに間違いあるわけがない。絶対間違いあるわけないんだ!」
作品名:端数報告4 作家名:島田信之