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端数報告4

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《社長が何かを知っていて隠しているのではないかといわれているが》
《社長と弟さんが不仲だという説について》
などなどやった後だったのだ。こいつの書いた記事をそのまま紙面に載せて、見出しをつけて大きく扱う読売新聞の上層部も無論問題なしと言えない。
 
だがそれ以前に、こんなやつの好きにさせること自体が問題だろう。再現ドラマで刑事は加藤に、
「喜んでるのは犯人だけやろ」
と言い、勝久氏が警察とマスコミへの不信から、
「最悪、犯人と裏取引することかて……」
と言う。だが〈裏取引〉という言葉が出た途端に加藤が言うのは、前に書いたように、
 
   *
 
「何か兆候があるんか」
 
画像:未解決事件番組タイトル
 
だ。再現ドラマで加藤を演じる上川隆也の顔は、
「グリコを追いつめることで勝久に裏取引させ、その証拠をつかんでやろう」
と思っている人間の顔だ。上川は正義の主人公のつもりでこれを演じている。
  
仮面ライダー・本郷猛。それを演じた結果そうなっている。勝久氏がほんとのほんとに会社の旧悪を隠蔽しようとしている醜い浮き世の鬼なら、加藤譲はそれを退治る桃太郎侍なのかもしれない。
 
でも違うなら屍肉漁りのハゲタカだ。勝久氏が〈彼ら〉によって殺されるのを待って食おうと狙ってただけ。
 
〈正義〉とは危険な諸刃の剣であり、振りかざすのが〈どくさいスイッチ〉を持ったのび太でないかをよく見る必要がある。グリコは犯人達よりも、マスコミによって追いつめられた。そしてどうやらちょうどこの頃、実際に裏取引しようとしていたという。
 
これもおれは『キツネ目』を読んで初めて知ったのだが、それは巻末の年表に、
  
画像:関連年表2
 
こう書かれる。5月26日、裏取引を試みるが失敗。警察に謝罪して以後は従うと誓うと。詳しくはこの本を買うか図書館で借りてほしいが、しかしどうやらこの一件が、ウィキには書かれていなかったけどまた内部犯行説を唱えるハゲタカの餌食になってしまうらしい。
 
ここではそれがどういうことかだけを述べるが、どういうことかだけを述べると、いま見せた年表に《長岡香料宛》と書いてあるのがわかるね。それがどういうことか述べると、〈彼ら〉はこのとき裏取引を持ちかける手紙を江崎家やグリコの会社でなくグリコに香料を納入する会社の社長宛に送り、
「これをグリコの社長か常務のところへ持っていけ。社長のお前が直接渡せ。従わなければグリコと同じようにしてやるぞ」
と書いていたという。実際には例のタイプ文字に例の文体でね。
 
それがのちに明るみになった後で問題になったらしいのだが、スキャンして見せると、
 
画像:キツネ目102-103ページ
 
こんな感じ。詳しくはもちろん本を買うか図書館で借りて読めと言うことにして、でも前回に犯人達は、
《グリコとは縁もゆかりもなく、『役員四季報』や「有価証券報告書」を参考に脅迫状を書いていた》
とこの本にあるのを見せたが、それがどういうことなのかこれで大体わかるだろう。
 
加藤譲を始めとするマスコミは、当時、内部犯行説をさかんに書き立てた。そして10年後、
 
アフェリエイト:レディー・ジョーカー
 
この本などが、それをまんま参考に書かれた。経営数字を知っていたのは内部の人間であるからだ。取引先を知っていたのは内部の人間であるからだ。
 
ということになってるわけだな。〈事件に詳しい者達〉の間で、それが常識にすらなってしまっている。
 
バカらしい。そしてそのように誘導したのが、マスコミもさることながら警察によるところが大きいわけだ。見せたように、そんな話を、
 
   《捜査幹部が記者たちにレクチャーしていた》
 
ことが、これに限らず事件のあらゆる局面で行われていたわけだろう。
 
警察もまたグリコの内部犯行を信じ込んで捜査していた。こいつなんかは、
 
画像:四方修いやそんなことないよ
 
マスコミに、むしろグリコを追いつめるよううながしていた。創業者の江崎利一は生前何か途轍もなく悪いことをしてるんや。これはその報いなんや。八つ墓村のたたりや。たたりや。
 
画像:グリコ工場アップ たたりやあっ!
 
というわけで、誰よりこいつが、
 
画像:四方修そんなバカなことあるわけない
 
いちばん悪い。だからうるせーんだ、黙ってろ。しかし、それにしてもだな。
 
   《長岡香料がグリコの大口取引先であることは、
    社内でも限られた部署しか把握していなかった》
 
と警察幹部が記者にレクチャーしていただって? いや、長岡香料なんて、おれはこれ読んで初めて知ったよ。たぶん、明日には「ナントカ香料」と呼んでるだろう。普通、あまり一般には知られることのない会社だよな。一般にはそうだろけどさ。
 
しかしそいつをマスゴミどもが信じたのか。新聞を読みニュースで聞くオトナ達が信じたのか。
 
画像:仕方修地元の警察が動くような犯罪捜査力を必要とする場面はないわけや
 
誰よりこいつがイの一番に信じたのか。当時に高校生のおれは何が何だかサッパリわけがわからなかっただけだけれども。
 
しかしいま思うにだなあ、以前おれが通販で靴を買った話をしたが、そのときの箱を今でも雑物入れに使ってるのが押し入れにあってさ、
 
画像:通販の箱
 
こう。グリコの菓子製造ラインや、例の試作工務室とかでバニラだのシトラスだのの香料を使ってるのなら、箱にはこんなふうにして社名と住所と電話番号が書いてあったりするんじゃねーのか? グリコの人間じゃなくたって、アカウマとかが見たら火をつけたくなるような形で敷地の隅にその空き箱が積んであったりしたんじゃねーのか? ユーカショーケンホーコクショだのといった外国語を使わなくても、それ見るだけで誰にでも把握できることだったりせんのかという気がおれはするんだけども。
 
どうなんだろね。《警察幹部が記者にレクチャー》なんて言うけど、それもグリコの人間がこいつにそうレクチャーして、
 
画像:仕方修なんの対応することもできないのにこちらの手の内がわかるだけで
 
こいつが信じてそういう話になったんじゃねえのか。ナントカ香料の社長が〈彼ら〉の指示のまま持ってきた手紙を、
 
画像:白色彗星
アフェリエイト:さらば宇宙戦艦ヤマト
 
こんなやつらが見て、誰でも知ってる程度でしかない数字に驚き、
 
「これは内部の反社長派が仲間にいるに違いない」
 
と考える。実は〈彼ら〉は、
「去年は冷夏の影響でアイスの売上が○億落ちたというが、取引に応じなければそれ以上の打撃となるぞ」
などといったことを書いてるだけなのだけど。
 
おわかりだろうが、そんなもん、ユーカショーケンホーコクショだとかいうのに頼らなくても普通に人の世間話にされることだ。
「今年は冷夏でアイスが売れなかったんですってねえ。グリコが○億減だとか言ってましたよ」
だとか。しかし前回、ここで見せた〈警察庁元幹部〉氏の話に、
《一般的に事件というのは、難航し捜査幹部が悩むと怨恨説を採用したがる。深読みしたくなるんですね。ですから、幹部が頭を働かすと、ろくなことにならないんです》
とあったように、
 
作品名:端数報告4 作家名:島田信之