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端数報告4

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(略)2日後の4月10日、グリコへの放火をおこなった。カネを払わない限り、いつまでも付きまとい、何をされるかわからないと思わせるための追い込みのひとつだった。
 この日の夜8時50分ごろ、夜間人通りが絶える本社社屋に面した道路から、まずはガソリンを浸した座布団に火をつけ投げ込み、工務試作室を全焼させている。次にその足で、淀川を挟んで本社と向き合うグリコ栄養食品に向かい警備員のいない通用門から侵入し、ガソリンを入れたプラスチック容器の口に詰め込んだ布に火をつけ、駐車場のライトバンに投げつけた。
 
   *
 
という。〈第二の脅迫〉の話はかなりおもしろかったが一方でこの〈放火〉について、『キツネ目』という本はこれしか書いていない。
 
おもしろくない。ただこれだけで全部なのだ。おれは図書館で借りたからいいけど、カネを出して買ったんだったら「カネ返せ」と言いたくなるよな。もうちっとなんか書いたらんかい、と言いたくなる話やないか。
 
せやろ。なんで書けへんのやろ。〈第二の脅迫・4月8日に6千万〉の話は〈彼ら〉のやることだから、読んでとてもおもしろかった。〈彼ら〉のやることはおもしろいのだ。しかしこの〈4月10日の放火〉の話は、読んでちっともおもしろくない。
 
なぜだろう。これが〈彼ら〉のやったことなら、なんで読んでおもしろくないのか。
 
 
   〈彼ら〉がやったんじゃないからじゃないのか。
 
 
この一件には細部がない。〈彼ら〉がやったことならばあってよさそうなおもしろい細部が。だからつまらんし書こうとしてもないのじゃないのか、書けることが。だからこの本の著者もこれしか書けんのじゃないのか。それはすなわちこの件は、〈彼ら〉の仕業じゃないのじゃないのか。
 
 
   やはりおれの考え通り、無関係な
   アカウマの仕業なのではないだろうか。
 
 
あらためてその思いを強くする。何よりこの5日後に書かれたという脅迫状に、放火についてひとこともないのだ。それには、
《8日は あほどもが あほなこと しておった》
と、6千万円要求の顛末についての言及があるが10日の放火についてはない。
 
どうして? これはおかしくないかな。やはりおれの考え通り、〈彼ら〉の仕業でないからじゃないのか?
 
4月8日はアホどもがアホなことをしておった。へへーん、あんなフェイントにひっかかりおって、ざまーみい。いかにもそんな調子であるがなぜ放火は書かないのか。この本の著者は〈キツネ目〉の手口を、
《恐怖心を担保にする》
手口と言い、この放火もそれだとするが、だったらなんで8日の件は手紙に書くのに10日のそれは書かんのだ。
 
〈彼ら〉がやったことでない。無関係なアカウマが便乗でやったことだからだ――あらためてその思いを強くする。そしてまたこの本で初めてわかることもあった。犯人は、それが誰であれ、
《夜間人通りが絶える本社社屋に面した道路から、まずはガソリンを浸した座布団に火をつけ投げ込》
んだ、という。9時にはもう人が通らない道? つまり路地裏ということだな。そこから座布団を投げ込んだだけだ。だったらたまたまその場所が工務試作室だった見込みがあることにならないか。
 
敷地の中までそこを目指して入り込んだわけではない。やはり小麦粉など練ったもんでも大量に積まれていたりしたものが、路地を抜ける人間の目には見えていたんじゃないか。アカウマならば火をつけてみたくなりそうな感じにさ。
 
で、前から、
「あれに火をつけたい、あれに火をつけたい」
と思っていた人間が、事件のためにもう辛抱たまらなくなってやったこと。
「今ならきっとそいつらの仕業ということになってくれるだろう」
と考えて――。
 
そしてボヤを起こしてやるだけのつもりがボボボボーン。それがやっぱり真相なんじゃありませんかね。あらためておれはその思いを強くしたわけでありますが。
 
――と、しかしああやれやれ。ここまで書いただけでずいぶん長くなったなあ。あとどんだけ書かなきゃいけないのかもわからないからとりあえず、今日はここまでとすることにしましょう。続きを待て。

作品名:端数報告4 作家名:島田信之