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端数報告4

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という賞金を懸け、それに応えた人間のネタで犯人がわかったという。それまでずっと警察は怨恨の線を追ってたのだが、グリ森事件でそんなことがあったのならば失敗から何も学んでないってことじゃん。
 
グリ森事件は最初の勝久氏誘拐から最後の手紙「悪党人生 おもろいで」まで1年5ヵ月。この本に、
《内部犯行説がようやく打ち消されるのは、事件発生から1年半以上経ってのことだ》
と書いてあるってことは、つまりすべてが終わってしまった後ということになる。で、
《犯人のひとりが、西宮市役所で江崎家の住民票を取得していたことがわかった》
とあるが、次のページに、これはスキャンして見せるまでもないだろうが、《警察庁の元幹部が語る》話の続きとして、
 
   *
 
(略)彼らが住民票を見ていれば、内部事情に詳しくなくても、家族関係を把握できるし、子供の名前も正確に呼ぶことができる。この前提に立てば、事件の少し前、母屋の裏庭の水銀灯のコンセントが外れていた理由も理解できた」
 
   *
 
とある。つまりウィキに〈怨恨・内部犯行説〉の根拠として、
 
   *
 
具体的には江崎誘拐の実行犯が江崎の長女の名前を呼んだこと、江崎誘拐における身代金要求の脅迫状で社長運転手の名前を名指ししたこと、(略)
 
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%B3%E3%83%BB%E6%A3%AE%E6%B0%B8%E4%BA%8B%E4%BB%B6
 
と書いてあるのを前に見せたが、これは否定されていたのだ。
 
そしておれはあれに対して、
「これのどこが具体的だ。長女の名前を知っていれば江崎家のことを詳しく知ってることになるのか」
などと書いたけど、おれが正しかったわけだ。〈彼ら〉は江崎家の裏庭に水銀灯のコンセントを外して潜み、一家を観察してたのだという。運転手の名前も何かそのようにして知ったわけだね。
 
――が、しかしこんなこと、おれと違って事件に詳しい者であるならみんな知ってていいはずなのに〈怨恨・内部犯行説〉は根強い。ここで再三見せたように2011年制作のテレビ番組・NHK『未解決事件』でも、
 
   *
 
記者A「犯人は江崎家のことを相当詳しく調べとるようですね」
記者B「グリコの内情をよう知っとる人間かもな」
 
画像:未解決事件番組タイトル
 
という描き方だ。〈ミスター・グリコ 加藤譲〉は明らかに、
 
「創業者の江崎利一は生前、何か途轍もなく悪いことをしてるんや。犯人はそれに恨みを持つ者なんや。だからそれを突き止めれば犯人が浮かぶ。ボクが抜いたるんや、ボクが……」
 
という考え方をしていてそれを決して変えない。事件から27年が経つ2011年に、
 
   *
 
「何が事実やったか、何が真相やったか、やり通さな答えがないと言うか、ちょっとでも肉付けしたいという――」
 
画像:ちょっとでも肉付けしたいという思いで その後も続けて27年間やってきた
 
ちょっとでも肉付けしたいという思いでその後も続けて27年間やってきた、と言う。それから十年後の今もたぶん言い続けている。
 
〈怨恨・内部犯行説〉を主張し続けている、たぶん。グリコの旧悪を暴いてそこから〈キツネ目〉にたどり着けたら、そりゃ大変なお手柄だもんね。死ぬまで考えは変えないだろう。
 
おれは無駄な人生と思うが。でもって、NHK『未解決事件』は、わずかの隙に運よく脱出できなければ勝久氏は殺されていたに違いない、と言わんばかりの描き方なのだがおれは「どうかな」と考えたのは前に書いたね。
「実質的な監禁時間は48時間。最初からそこで逃がす計画だったんじゃないの?」
と。それについても、この本で新たにわかったことがあった。引用すると、
 
   *
 
 水防倉庫を引き揚げる際、倉庫内を掃除したうえ、「手が痛い」という江崎社長の訴えを聞き入れ、手錠を外し、ロープで両手を後ろ手に縛り直している。また、真新しい下着やシャツ、ジャージなども与えていた。
 (略)
 キツネ目の男は、水防倉庫を立ち去る際、江崎社長に夫人と長女を預かっていると告げたうえで、こう命じている。
「三十時間はここから動くな。動くと奥さんと娘の命はないぞ」
 
  *
 
だって。それまでは手錠を掛けていたのをロープに変えた? それもあまり手が痛くならないような縛り方をしたってことか?
 
で、「三十時間はここから動くな」? それはつまり、それを言うのが21日0時として、
 
 
   「22日の朝まではダメだが、その後ならば逃げていい」
 
 
と言ってることにならんか。てゆーか、他に意味の取りようがないんじゃないか。おれは前に、
「いずれ空腹などに耐えかねて外に出ることになる。〈彼ら〉はそう考えていて――」
などと書いたが「30時間」と言ってたってことは、そのぶんくらいの食糧は置いていきもしてたのかな。
 
だろうな。そこは訂正するが、そうだとしても後ろ手に縛られたままじゃ食えんわけだし、やはりすぐほどけるような縛り方をしてたのだろう。〈彼ら〉は監禁を【48プラスn時間】として自力で脱出させるのが最初からの計画だった。その点でおれの考えが正しい見込みはより高まったと言えるのじゃないか。
 
実際、この本にもスキャンして見せるが、
 
画像:キツネ目80-81ページ
 
こう書いてある。
《従って、江崎社長の自力脱出は、もともとキツネ目の男の犯行計画に組み込まれていたことになる。》
と。でもってその後に、上に見せた通り、
 
《誘拐犯にとって、人質は足手まといであり、長く抱え続ければ続けるほどリスクは増大する。そもそも食事を与えるなどの世話が必要になるうえ、いつ予期せぬアクシデントが発生しないとも限らない。何より人質と一緒にいるところに踏み込まれれば逃れようがない。より安全にグリコからカネを取るには、人質ではなく、江崎家の人々の恐怖心を担保に取るのがいい。それには江崎社長の切羽詰まった声を聞かせ、カネを払わなければ一生付きまとうと脅し、江崎家の人々を心理的に追い込んでいく。暴力は使うとしても最小限にとどめ、精神的敗北をもたらすことで、マインドコントロール下でカネを払わせる。恐喝の典型的手口を使っていたわけだ。江崎社長の拉致は、そのためのトラウマ作りであった。
 でなければ、水防倉庫に江崎社長をひとり残して立ち去る際、「30時間はここを動かずじっとしとれ」と時間を切ることはなかったはずだ。》
 
と長々と書いている。《でなければ〜なかったはずだ》ねえ。ここはおれの考えが、この本の著者と違うとこだな。
 
でなければ〜なかったはずだ? いやいや、その考えは苦しい、無理がある、とおれは思うがいかがだろうか。確かに誘拐犯にとって、人質は厄介な存在だ。だから今どきの悪党は、人質を棺桶に入れて土に埋め、
「○日までにカネを出さないと窒息するぞ」
なんて脅迫をしたりする。やるのは本物の凶悪犯だ。グリ森事件はもちろんまだその手口が生まれてない頃の話であるが、でもこの場合、去るなら去るで、
 
 
作品名:端数報告4 作家名:島田信之