端数報告4
だから一応、計算が合わないことはなかった。厚労省にとって市民は森永チョコボールの箱である。20個にひとつくらいの割で〈銀のクチバシ〉がある紙の小箱にすぎないのであり、中のお菓子には用が無い。〈銀のクチバシ〉を集めることで〈金の当たり〉の【百万人が死ぬ〈波〉】を起こせる、起こさなければ、という考えでいるのだが、けれどもいくつ集めればいいのかわからん。学者は「今度こそもうちょっと」「今度こそもうちょっと」と毎日口を揃えて言うが、来ない。なぜだ。どこか間違ってるとこでもあるのか。
そんなはずないと思うんだけどなあ、とみんなで首をひねるが、わからないので続けるしかないのであった。〈金の当たり〉の【百万人が死ぬ〈波〉】が起きてくれたなら、言ってやるんだ、
「ほら見ろ」
と。我々が言った通りだったろうが。こうなったのは飲食店が悪いのだ。「親に会うな」とあれほど我々が言ったのに親に会うやつが悪いのだ。そして何より「手洗い励行」とあれほど重ねて言ったのに全然洗おうとしなかった者が何百・何千万といたのが悪い。
そう言ってやるんだ。わかっただろう、これまでずっと、我々のことを、
「役人とは〈役に立たない人間〉の略。お前らのことだ」
と言ってきた愚民どもめ。世の中は学歴がすべてなのだ。それを持つ者が偉いのだ。今後、学歴の劣る者が、優る者に意見するのは決して許さん。学の無い者はある人間の言うことに、ただ「ハイ」とだけ応えて従え。勉強のできる人間ができないやつのためを考えて言うことに、間違いなどけっしてないというのを知れ。
と、言ってやるんだ。そんな社会を造ってそれを永遠のものとしなければならないのだ。ここでコロナで百万人が死ぬ〈波〉が来れば、それが実現することになる。
そうだ! そうなのだ。うわははは! だから必ず百万人がいま死なねばならないのだ!
そうだ、さあ死ね、〈波〉よ起きろ! 百万人を殺してくれい! 百万人を殺してくれい!
――と、立派な学歴を持ってはいるが持ってるだけで、社会でなんの役にも立ってこなかった者らが何万も心で叫び、〈銀の当たり〉をセッセと集めてきたのだけれど、一向に〈波〉は来てくれない。なぜなんだよお、というのでとうとうここへ来て、ほんとは《625》なのに、
「きのうは4400人! 今日は4500人! 今度こそ本当に感染大爆発です!」
と言い出しちゃったわけなのだな。オリンピックに加えてまた去年のように、8月半ばに〈波〉が来てくれて今度こそ百万が……という期待でもしてたのかな。
でもあいにくと、今年は全然熱帯夜がないもんなあ。クーラーかけてハダカで寝るやつは少ないのじゃないでしょうか。
――と言うわけで今回は、
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この画の〈件数〉を700で割ってパーセントの数字で割れば一日に確認される妖精の数を出せますよ。それがテレビでその週に言う新規感染の数と大きく違うようならどういうことか、わかりますよね。という話を今回はしたいだけだったのでこれでおしまい。それではまた。