端数報告4
なオドロ怪奇話のように世に見せかけた犯人だ。NHK『未解決事件』は、番組冒頭のイントロダクションでグリコのネオン看板を、これは道頓堀でなくグリコ本社か工場のものらしいのだが、
画像:グリコ看板ロング まずこう撮って、せまるう〜♪
画像:グリコ看板アップ ショッカー!
と、こう見せる。これが番組が始まって1分30秒のところで、まるで磔(はりつけ)にされたキリストが、魔物と化して日本社会を罰しに来たとでもいったイメージだ。
事件当時のニュース映像なのがおわかりになると思うがこんな画を、掘り起こして使っている。しかしこれは犯人達が〈我らを狙う黒い影〉であったと言うよりも、いかに当時のマスコミが扇情的に報道していたのかを如実に表すものでないのか。
マスコミは事件を〈地獄の軍団〉が社会を襲いにやってきたかのように演出する報道をしてきたしこの番組でもそれを続けている――そう捉えるべきものではないのか。
おれは見ながらそう感じた。そしてイントロダクションが終わって5分目、上川演じるミスグリ加藤譲記者登場。再現ドラマは事件発生から16年後、最後の脅迫から15年が経つ2000年2月12日に始まるのだが、上川のナレーションで、
*
「あと3時間で、とうとうその日がやってくる。グリコ・森永事件の事項が成立する日や。事件発生当時、ぼくは、大阪府警捜査一課担当キャップをやっていた。犯人逮捕の特ダネは、ぼくが抜く。その思いで今日までやってきた」
画像:グリコの看板を見上げる上川
などと言ってこんな画を見せる。最初に見せたのと同じものだが、なんだかまるで、松本零士の『スタンレーの魔女』といった感じである。
でもって、
画像:グリコ看板点灯 ピッ、ピッ、ピッ、
画像:グリコ看板消灯 ポーン
と、どうやらこのネオンの灯は毎晩零時に消えるらしいが、そこでまるで、
画像:スタンレーの魔女最終ページ
アフェリエイト:スタンレーの魔女
こんな感じの署名原稿を書く。こうだ。
画像:時効成立時署名記事
赤で囲った部分に注目。番組ではこの続きが読めないが、ともかく、
《事件の始まりだけを見ても、謎ばかりだ。なぜ犯人らは警察に通報しないよう社長夫人に強く口止めしなかっ》
とあり、後に「たのか。」と続くのだろうが、犯人らは警察に通報しないよう社長夫人に強く口止めしなかったのか。それはなぜだ。
彼にはこの謎が解けないようだ。彼は《謎ばかりだ》と言い、ウィキは《不可解な点》だらけとするが、ウィキはそれらが怨恨説の根拠ともする。だが怨恨で、口止めをしなかったことが説明できるか。
できないだろう。おれは通報してほしいから口止めしなかったんだと思うが。
グリコのネオン看板を世界的に有名にするがための誘拐だから、大々的に報道してほしいので口止めしなかったんだと思うが、しかし、〈ミスター・グリコ〉と呼ばれた男は16年間に一度もそういう考え方はしなかったらしい。そういう考え方をするおれがバカだというだけの話なのかもしれぬがしかし、それからさらに11年後に制作されたこの番組にチラリと出て、
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「何が事実やったか、何が真相やったか、やり通さな答えがないと言うか、ちょっとでも肉付けしたいという思いでその後も27年間やってきた」
画像:ちょっとでも肉付けしたいという思いで その後も続けて27年間やってきた
と言う。肉付けはいいけど、問題は、この番組を見る限りこの男の言動のひとつひとつがおれにはどうもおかしく感じられることだ。この男は記者にしてはいけない男なのではないか――おれの目で見てそう感じる部分ばかり。
さっき見せたウィキに、
《事件から3日後の3月21日14時30分ごろ、(略)江崎が保護された。(略・監禁場所の)水防倉庫から自力で抜け出したとされ、(略)》
とあるように、江崎勝久氏の脱出と保護で誘拐そのものはとりあえず終わるが、NHK『未解決事件』はそれを加藤譲の視点で、
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上川によるナレーション「江崎グリコ社長が脱出したとき、正直これで事件も解決すると思うた。せやけど実際は、ここからが事件のほんまの始まりやった。ちょうど同じ頃、大阪でもうひとつ、別の誘拐事件が起こった。わが読売新聞は、そのとき報道についての取り決めを破ったとして、無期限のボックス閉鎖という厳しい制裁を受けることになった。この事件に関しては出だしからツキがなかった」
画像:読売ボックス閉鎖
と描く。ハン? 無期限のボックス閉鎖? なんだそれは、と思いつつ見ていると、池内博之演じる毎日新聞の記者・吉山利嗣というのがドアに釘を打たれているところに現れ、
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「おー、ええ気味やん」
画像:池内博之
と言う(画面中央、青いシャツの男)。続けて、
*
その後輩らしき者「言い過ぎですよ」
加藤(上川)「ぐっさん、聞こえてんで」
吉山(池内)「気にすんなや。心の声や」
記者A「ちっ。会見もレクも出られへんのでしょう。どないすればええんですか!」
加藤「倍の時間かけて取材したったらええねん」
記者B「絶対に抜きまくりましょう」
加藤「うん」
画像:レクも出られんのでしょう
と描かれる。これはどういうことか、と見ながら思わざるを得ない。
時を同じくして起こった別の誘拐事件で、読売は報道についての取り決めを破っているらしいのだ。「わが読売新聞は」なんて言い方をしているが、社内の別の部署の者が何かやって加藤らはそのとばっちりを受けたのか。
そう聞こえる言い方だが、その一方で他社の記者から「おー、ええ気味やん」だ。「ツキがなかった」という言い方もおかしい。やってはいけないことをやってしくじった人間が、自分は悪くないことにしようとするとき使う言葉の用法じゃないのか。
これはそのような感じに見える。具体的に何をやったかわからぬし、別の事件の報道でやったことだと言うのなら直接関係ないとも言えるが、しかし制裁を受けるからにはよほどのことをしたのでないのか。誘拐事件ということなら、人質の身に危険が及びかねないような……。
そしてなんの反省もなく、
「絶対に抜きまくりましょう」
「うん」
と言い合っている。特ダネのためなら何をやらかすかわからんやつら、というふうに見えないこともない。
いや、もちろん記者が報道合戦に勝とうとするのは当然だろうが、しかしやっぱりドアに釘打ちは穏やかでない。にもかかわらず「ちっ」と言ってるだけというのは……。
どうもな、と感じるが、それはさて置き、江崎勝久氏脱出・保護をこの番組がどう描いてるか見てみよう。その日、加藤らがまだ閉鎖のされていない〈ボックス〉とやらで、
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記者A「犯人は江崎家のことを相当詳しく調べとるようですね」
記者B「グリコの内情をよう知っとる人間かもな」
加藤「誘拐されてから4日目か」
記者C「社長は、もう……」
画像:事件から4日
などと話しているところに勝久氏保護の報せが届く。ナレーションが、
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