端数報告4
というので考えたのが社長誘拐だったというのが、おれが思う一連の事件の始まりである。もちろんただの当て推量で証左となるものなどないが、それでも、これが動機なら、「不可解な点ばかり」とされている事件の始まりについての謎がすべて解けると思えるのだ。
ウィキを見るとこの件について、
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江崎グリコ社長誘拐事件
1984年3月18日21時ごろ、当時兵庫県西宮市に居住していた江崎グリコ社長江崎勝久の実母宅に拳銃と空気銃を構えた2人の男が勝手口を破って押し入り(家の外には車の運転手役の男がおり、犯行は3人組の男が実行している)、同女を縛り上げて社長宅の合鍵を奪った。2人組はそのまま隣家の社長宅の勝手口から侵入、社長夫人と長女を襲い、2人を後ろ手に縛って脇のトイレに閉じ込めた。その後、2人の男は浴室に侵入。長男、次女と入浴中だった社長を銃で脅し、全裸のまま誘拐した。夫人はこの後、自力でテープをほどいて110番通報。
翌3月19日1時ごろ、大阪府高槻市の江崎グリコ取締役宅に犯人の男から指定の場所に来るよう電話がある。取締役が指定場所に向かうと、社長の身代金として現金10億円と金塊100kgを要求する脅迫状があった。
この段階から、兵庫県・大阪府にまたがる重大事案として、兵庫県警察本部、大阪府警察本部による合同捜査体制が始まる。その後、犯人の男から電話があり別の指定場所に身代金を持って来るよう要求したが、結局犯人は現れなかった。犯人グループが要求した現金10億円は高さ9.5メートルで重量は130kg、これに加えて金塊100kgでは運搬が困難であり、合同捜査本部ではどこまで犯人グループが本気で要求していたのかいぶかる声もあったが、要求に従ってグリコはそれらを用意した。社長の母や社長夫人が犯人に対して「お金なら出します」と言ったにもかかわらず「金はいらん」と犯人が答えたこと、身代金誘拐が目的なら抵抗される可能性が少ない7歳の社長長女を誘拐するほうがリスクが少ないのにわざわざ成人男性である江崎を誘拐していることなどが身代金目的の誘拐としては不可解な点であり、金目的ではなく怨恨が犯行の原因という説の根拠となった。
その後、誘拐事件は急展開する。事件から3日後の3月21日14時30分ごろ、国鉄職員から110番通報を受けた大阪府茨木警察署によって江崎が保護された。江崎の証言によると、大阪府摂津市の東海道新幹線車両基地近くを流れる安威川沿いにある治水組合の水防倉庫から自力で抜け出したとされ、対岸に見えた大阪貨物ターミナル駅構内へ駆け込み、居合わせた作業員達によって無事に保護された。
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こうまとめられている。おれが特に注目するのは、
《社長の母や社長夫人が犯人に対して「お金なら出します」と言ったにもかかわらず「金はいらん」と犯人が答えたこと、身代金誘拐が目的なら抵抗される可能性が少ない7歳の社長長女を誘拐するほうがリスクが少ないのにわざわざ成人男性である江崎を誘拐していることなどが身代金目的の誘拐としては不可解》
という部分だが、ウィキではこれが、
《金目的ではなく怨恨が犯行の原因という説の根拠となった。》
となっている。しかし怨恨の二文字でそれらの奇妙さを説明できるか。
《犯人グループが要求した現金10億円は高さ9.5メートルで重量は130kg、これに加えて金塊100kgでは運搬が困難であり、合同捜査本部ではどこまで犯人グループが本気で要求していたのかいぶかる声もあった》
ともあるが、カネが目的でないのならなぜ10億円プラス金塊100キロなどという途方もない額を要求したのか。ウィキにはこの後、〈元グリコ関係者説〉として、
《(犯人グループは)グリコがすぐ10億円を用意できることを知っていた》
と書かれてもいるのだが、おれはあやしいものと思う。つまりおれの〈プロレス説〉なら、すべてをスンナリ疑問なく説明できるものと思う。
子供でなく社長を攫っていったのは、彼らが子供を攫うような凶悪犯でなかったからだ。グリコのネオン看板を世界のテレビに映すためには、攫うのは社長本人でなければならなかったからだ。「金はいらん」と言ったのはほんとにカネが要らなかったからで、「10億プラス金塊」は目的のために必要な額だが話を世を騒がせる大事件にするために必要な額であるに過ぎず、まさか用意できるものと考えてすらおらず、用意できるわけないのだから持ってこれるわけがない。そう考えて指定の場所に行くことすらなかったのだ、と。
ただ新聞やニュースを見ながら、
「やったやった。大ニュースになっとるでえ」
としか言ってない。このときはまだ、
「でっかいことをやって世間をアッと言わせてみたい」
という動機でやったイタズラでしかないのだから――しかしここでひとり、彼らの思いもよらない者が話に割り込んでくる。
言わば〈仮面ライダー〉だ。それがこの、
画像:加藤譲
当時、読売新聞で事件記者をしていた加藤譲という人物だが、これはなんでも他の新聞社の記者などからも、
〈ミスター・グリコ〉
と呼ばれる存在だったらしい。つまり、言わば仮面ライダー。NHKテレビは2011年に、
『NHKスペシャル 未解決事件File.01 グリコ・森永事件 劇場型犯罪の衝撃』
という番組を制作しているが、これは冒頭のナレーションで、
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「(略)番組では、犯罪史に刻まれたこの事件の全貌に、ドラマとドキュメンタリーで迫る。
(略)ドラマには、実在の人物が登場する。事件発生から取材を続け、ミスター・グリコと呼ばれた加藤譲記者。ドラマはこのひとりの記者の目を通して事件の深い闇を描いていく」
画像:NHKスペシャル『グリコ・森永』番組タイトル
と言って再現ドラマ部の主人公とし、上川隆也がこれを演じる……のだがおれが見るところ、この人物がどうもいろいろと変なのである。
再現ドラマは当然ながら、脚色されているだろう。すべてが事実通りではない。それはわかるが、どうにもこうにも、上川演じる仮面ライダー、いや〈ミスター・グリコ 加藤譲〉の言動にいちいちひっかかりを覚える。まるで自分がやっているのが子供向け特撮番組の主人公なのがわかっていない藤岡弘が遊園地のライダーショーを通りがかりに見て本気にし、
「こんなところに怪人が! お、お菓子に毒だって?」
と言って変身、いや変身はしないけど、
「そんなことはさせん!」
と叫んで舞台に乱入していくものを見せられているように感じる。
いや、もちろんグリ森事件は実際にあった事件だし、事件記者が事件を追うのは当然だろうがそれにしても、あまりにマジに受け取り過ぎているように見える。事件は日本を震撼させたが、日本を震撼させたのは〈犯人グループ かい人21面相〉でなく、ひょっとしてこの本郷猛じゃないか? ある意味でこの男こそ、真犯人だったりしないか?
見ていてそう思わされた。
「グリコのネオン看板を世界的に有名にしよう」
という冗談でやったイタズラの事件を、
「八つ墓村の祟りじゃあ〜〜っ!!」