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端数報告4

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去年からこっち、インフルエンザにかかる者はごくわずかしか出てないらしい。25万が死んでいたのが今はゼロに近くなってる――ひとつの年に流行る風邪は一種類と決まっており、コロナが広がったがために他の風邪ウイルスは引っ込むしかなくなったわけだろう。なんでか知らんが風邪とはそういうもんらしいからな。どこかで細々と命脈を保ってもいるのだろうが。
 
だからコロナの死者数が、月に4万以下になれば〈禍〉は終息したものと考えていいはずだ。風邪で毎月2万から4万人が死ぬのは当たり前でしょうがないとみなすべきことで、それが今はインフルエンザからコロナに代わっただけなのだから。
 
そしてニュースが伝えている世界の死者数がどうもおかしい。水増してねえか。ほんとは終息しているものを終息してないことにするために今月10万・20万と言っちゃったりしてねえか。やろうと思えばいくらでも増やせそうな国で特に人が死んでるように見える。去年に200万人が死んだと言うが、本当は、80万くらいだったりしねえの。
 
二年前まで〈世界〉のうちに入ってなかった国の分まで、加算したりしていねえの。インドなんかこないだまでは伝染病で人が死んでも気にせずガンジスに流してたのが、急にコロナで10万死んだ20万死んだとわめき出していたりしねえの。それだと例年との比較というのも、難しい話になってくるはずなんだが。
 
とにかくありとあらゆる数字が、割り引いて見た方がいいとしか思えん。コロナの死者が100万人、インフルエンザで多いときのせいぜい2倍というのでは困る者らが水増している。それでは自分が史上最大の災厄から世を救うため立ち上がった戦士ということにできないから――その疑いを持って見た方がいいとしか思えん。だから〈旧型肺炎〉による例年の死者数が伏せられテレビが言わないのだと。
 
 
 
……が、もっともおれはこの前、日本の厚労省もまた水増しをしてる、その証拠を見つけたなんて書きましたが、ごめんなさい。あれは勘違いでした。こないだ、さっき見せました『ウイルス・プラネット』を借りるついでに、図書館に置いてある新聞の縮刷版。
 
画像:縮刷版
 
これね。こいつを見てみたんだが、一日の死者数よりも累計が増えてくなんてことだけはなかった。確かめもせず適当なことを書いてしまって申し訳ない。
 
何しろおれは新聞をとっていないし読まないんでね。けれども代わりにおもしろいものを見つけたので報告しよう。ここから今回の本題である。
 
ふう。またまた前置きが長くなったが、新聞の縮刷版は貸出不可の資料なのでトイレに持ち込みページをカメラで撮ることにした。やってはいけないことなのであなたは真似しないこと。
 
それが、
 
画像:7月のデータ
 
これだ。朝日新聞は毎週日曜、
〈(コロナウイルスの)陽性率(7日間平均)と検査数(7日間合計)〉
なんてものを去年8月から載せている。おれはそれを見つけてこれがその最初のものだ。
 
数字がふたつ並んでいるが右側のグレーのやつはそのときどきの直近の数字で追加報告で変わる可能性があるものとされ、実際に翌週の分を見るとかなり変わっていたりする。だからそっちは見ないで左の黒く書かれた方だけ見よう。
 
去年7月17日から24日までの陽性率の平均が東京で6.5%。下に小さく《28784》と書いてあるのがわかるね。7日間の検査数合計――これを最初に見つけたとき、おれはかなり驚いた。これこそおれが求めていた情報であり、厚労省が公表などしてないものと思い込んでいた数字だからだ。
 
でも、それが載っていた。新聞の毎日曜日の同じ場所に同じ形で。それが縮刷版に刷られて図書館の棚に置かれている。ためにページをめくるだけで推移をつぶさに知ることができる!
 
これが驚かずいられようか。しかもこの分厚い本をちょっとめくってみただけで簡単に見つけちゃったのだ。「おれが見つけた」と言うよりも、数字の方からおれの目に勝手に飛び込んでくれたみたいに。この情報の重要さに気づいてくれる者が来るのをずっと待ってでもいたみたいに。
 
勉強ができる人間は頭がいいわけじゃないから試験でいい点が取れるだけ。答が決まっていることにしか答を出すことができず、問題が間違っているときにそれを正す能力を持たない。普通の人には《28784》という数字が何を意味するかわからんだろうがおれにはわかる。去年7月、東京で週に2万8千人を検査し6.5パーセントが妖精だった。
 
というだけのもんだ。簡単だ。だが簡単なところがいいのだ。7日間に2万8千人ということは一日あたり4千人。
 
6.5パーということは妖精の数は260。だからニュースはこの当時に、
「本日、新たに260人の感染が確認されました」
とか言っていたはずだ。うん、よく憶えてないが、だいたいそのくらいだった気がする。
 
「260人ですよ。260! 260! これはまったく感染が爆発してる状況と言えます。新型コロナウイルスが、すさまじい勢いで拡大してる状況と言えます。間違いなく波がそこにまで迫っていることを示す数字です! 260人なんてえっ! 260人なんてえええっ!」
 
だとか確かに言ってた気がする。でも一日に4千人を検査して260人なのだから、割合は6.5%なのだ。
 
検査する数がもしも千人だったなら、その日の新たな妖精の数は65人だったわけだ。さて、おれはこれまでに、去年の春にテレビで一度、
「おととい東京で一千何人を検査して妖精が○人だったので6パーセント。きのうは九百何人を検査し○人だったので7パーセント。一日で1パーセントの増加です。これが10パーセントになるとき波が来るのですが、あと3パーセントしかない! このままではあさってにも! いや、あしたにも! それどころか今日のうちにも波が! 波があ――っ!」
なんてわめくやつがいて、それをスタジオの全員が恐れおののいて頷き聞いてた。おれはそれ見て「バカか」と思い、
「10パーセントで波が来るだと? 勝手に変な法則を作るな」
と考えたけどそのときは、ただ考えただけだった、という話を再三してきた。去年の春に東京では日に千人前後を検査し「今日は60」とか「70」と言って、妖精率は6か7パーだったのがわかる。
 
それが7月に6.5パーなら、変わってねえっていうことじゃん。4倍の数を検査して妖精の数が4倍になるのは、「増えている」って言わねえよ! しかしテレビは感染の確認数が増えることを、感染が拡大していると言う。
 
妖精が増えることを拡大と言う。それは間違いだ。次に去年の11月を見てみよう。
 
画像:11月のデータ
 
こうだ。東京の妖精率は6.4%で同じ。だが7日間の検査数は《42112》となっている。
 
週に4万2千なら一日あたり6千人。7月が4千だから1.5倍に増えている。日の妖精は384人だったわけで、
作品名:端数報告4 作家名:島田信之