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と言うことになる。こいつはそうだ。TVアニメ『スーパーカブ』は2018から19年初めにかけてを時間設定にしてるようだが、第3話に、
 
画像:ゴーグルマスク男
 
こんなやつが出てきたりして、いたなあ。そう言や、こういうやつが。厚労省とか、こんなのが元からたくさんいたんだろうな。
 
三人にひとりくらいがこのクチだったりしたんじゃねえのか。こういう人はこの〈禍〉の中をどう生きているんだろうか。ゴーグルマスクで生活してても異常者を見る目で見られなくなりラッキーだと思っているか、それとももはや宇宙服みたいなものを着て歩くようになっているのか。
 
『スーパーカブ』の主人公の小熊って子も見てると冬の防寒装備が宇宙船にでも乗るのかという感じになった。あるいはキリコ・キュービーの服かというのを着るようになり、最低の野郎どもが乗るバイクに乗り続けたせいか口の利き方がすさんでいった。
 
健康優良不良少女も悪くないけどそう言や『AKIRA』の金田なんとかにしても確か高校生だったけど、親がいるのかいないのかわからんキャラであったことよな。主人公をなんの意味なく十七、八の設定にすると話に無理が生じる。親のいない少年少女がひとりもしくは兄弟とだけ暮らしながら高校に通うなどというのは本来有り得ん。大抵のマンガやラノベは「親はいない」でなく「外国にいる」ということにして無理に押し通す。
 
はずだがしかし『スーパーカブ』はそれをしない。もう最近のラノベは「外国にいる」さえ使わず「親はいない」とひとこと言うだけでよくなったのか。
 
かもしれないがそれにしても……というわけで、やっとここから本題の『スーパーカブ』の話である。おれはこれまでこのブログで、このアニメの主人公はなんなのかと書いてきた。
 
書いてきたけどなんなのか書かずにこれまでやってきた。主人公の小熊には苗字だけで下の名がなく、親がいなくてひとり暮らし。でも高校に通ってて、住んでる団地の自分の部屋にはひと通りの家具があるけどテレビはなく、棚には学校の教科書だけ。
 
ずいぶんと奇妙な生活をしている。何よりどうして親がいないかの説明がない。
 
「親はいない」と言うよりも、まるで何かの実験台のように見える。「親はいない」でなく「親の愛を受けていない」。親がないから人の愛情というものを知らずこれまで育ってきている。この子はそうだ。それはすなわち「人間ではない」ということにある意味なることになる。
 
この主人公は人間でない。人間としての生き方を知らない者は人間でない。だから実験生物だ。病院ででも育った子供が16歳になったところでいきなり高校に編入させられ、その部屋をあてがわれ、ひと月が経ったとこ。炊飯器と電子レンジの使い方だけようやく知ったようなところ。テレビも見せてもらえずにきて世の中のことをなんにも知らないから、ラジオをつけても情報の洪水に耐えられない。だから短波放送のピアノのソロと天気予報だけの局から選局を変えない。
 
とでもいった描かれ方だ。最初は一体なんなんだこりゃあと思いながら見ていたが、そのうち気づいた。そうかこの子は!
 
――などと書いたきり、そのままにしてきたけれど、その続きを今に書こう。小熊○○。この子の名前は、アガサだ。そしてミリアムだ。前者は映画『マイノリティ・リポート』の予知能力少女の名であり、後者は『エリア88』のゲイリー・マックバーンの娘の名。どちらも麻薬中毒の母から生まれて一方は虐待を受け、もう一方は出産に耐えられず乳を呑ませてもらうことなく死なれた。
 
だからキリコ・キュービーでもあり、結果として母親がない。父もいないのも同然である。それでも生きてきたけれど、それはわけあって生かされたから。生きるために必要なカネが送られてきたからだ。
 
『マイノリティ・リポート』のラストでアガサは秘密の場所に送られるけど、どう見ても子供が生きられるところじゃない。たぶんアラスカのツンドラ地帯。北緯67度より北の白夜の圏内で、周囲数十キロに一切の人家がない。
 
画像:マイノリティ・リポート ラストシーン
アフェリエイト:マイノリティ・リポート
 
という、こんなところにセオドア・カジンスキーの小屋みたいなものを建てられ、「住め」と言われる。無理だろう。電気もガスも水道もなく、燃料は薪だ。薪だけど、ツンドラだからまわりにはごく低い木しか生えない。細腕の子供に木を切り斧で割るなど果たしてできるのか。
 
無理だろう。薪よりここなら泥炭がいくらでも採れそうな感じだから、地面を掘って火にくべるのがより実際的ではないか。
 
どっちにしても重労働だが――いやそんなのはいいとしても、これで一体、何を食うんだ。魚でも釣り、海草を採って食えとでも言うのか。
 
それはまるきり、セオドア・カジンスキーの哲学だろう。大人が自分で選ぶならまだしも、無理に子供にさせるなと言いたい。それもアラスカのツンドラなんかで。しかもついこないだまで、薬液プールに漬けっぱなしにされてたような子供なんかに。電気がないからテレビもなくて、読んでいいのは百年以上前に書かれたような本だけ。
 
でかい。重い。ペーパーバックや日本の文庫本のようなものは与えてもらえずに、中身はたぶん『十五少年漂流記』とか『ロビンソン・クルーソー』、『収容所群島』といった島流し本。
 
いくらなんでも無理がある。それによく考えたら、女の子を男ふたりと一緒にしとくわけにはいかん。
 
というのでアガサだけ、日本の山梨に行くことになった。男ふたりはたぶんそのままあの小屋に置かれ、凍死するか飢え死にか、北極狼の餌食になってる。
 
――という、それが『スーパーカブ』第1話の小熊である。電気とガスと水道と、米やレトルト食品を買うカネだけは与えられるようになったがテレビと本は相変わらずダメ。トム・クルーズとスピルバーグに固く禁じられている。破ればアラスカに逆戻りで、今度こそ狼のエサなのだ。だから雑誌など売られているコンビニは我慢。ラジオも一局に固定されてる。
 
というわけで、おお、見事に、第1話の謎が解けたぞ――って、いやいや、まだカブを一万円で買える謎が残っているか。第5話で最低の野郎どもが乗るバイクだったと判明するがだからと言ってなぜ一万。
 
〈ボトムズ〉はBABY,THE STARS SHINE BRIGHTの略でBOTOMS。〈最低の野郎ども〉というのは間違いで頭はVで始まっている。VOTOMSだ。ちなみにおれはエブリシング・バット・ザ・ガールのCDを3枚持っているけれど『下妻物語』に書いてある〈ベビースターラーメン〉というのはない。
 
画像:エブリシング・バット・ザ・ガールのCD3枚
 
たぶん探して聴かない方がいいのだろう。小熊が買った〈スーパーカブ〉は〈スコープドッグ〉だ。やはりそうだったのか、と、第5話を見て納得したが、それにしてもなぜ一万。
 
礼子というキャラクターの話だけでは充分でない。グリ森事件の怨恨説や被差別部落説のように説得力がない。そんなバイクをなぜ〈シノさん〉という人は、見ず知らずの少女に売るのか。
 
 
〈見ず知らず〉ではないからでないのか。
 
 
作品名:端数報告4 作家名:島田信之