端数報告4
具体的なものはなく、すべてがほのめかし。それだけだ。感染が広がることでウイルスが強い毒を持つ法則なんかあるわけないのにあることになってしまっている。バカだろう。「感染が広がっている。急速に広まっている」とテレビは言い続け、どのように広まっているかと言えば「これまでにない勢いで」。いつもそうだがそれでは一体何割何万の人間がいま感染してると言うのか。
それは言わない。なぜだ、と、これも再三書いてきた。そんなに急速に広まってるならとっくに100パーになってんじゃねえのか。マスクや密を避けるだけでは充分でなく拡大を食い止めようがないがためにモンの凄い勢いで広まってんでしょ、ねえねえねえ。ならばとっくに100パーセントになっているのじゃないのですの。違うのでしたらたとえば東京都民中、何割何万の人間がいま感染してるというのか教えてくださらないかしら。
それを聞かなきゃ具体的にどんなふうに広まってるかわからないのじゃありませんの。あたくしの言うこと間違いかしら。〈感染者数〉なんてものじゃなく、その数字から導き出せなくないはずのパーセンテージを示してください。
と再三書いてきた。〈感染者数〉は〈消防署の方から来た者の数〉。それを指して「これだこの数字だ」と言うのは〈ナンバーくじの予想〉。それ以外のなんでもないと。厚労省が割合を計算してないわけがない。去年の春に一度だけだが「7パーセントが一日で8パーセントになった」だとかテレビが言うのをおれは確かに聞いたぞ。あのバカは、「感染者の割合が10パーになったときに〈波〉が来るわけですがあと2パーしかないのです。つまりこのままではあさって! いいえひょっとすると今日にも!」なんて言いやがった。
おれはそれを確かに聞いてハッキリと憶えているぞ。何月何日なんてやつがどの番組で、というのこそおぼろげだがな。
とも再三書いてきた。厚労省は割合をその後に計算してねえってのか。じゃあ一体、なんのための検査なんだ。「感染がこれまでにない勢いで急速に広まっている」と言うならきのうは何パーセントで今日は何パーセントなんだよ。
それを聞かなきゃわからねえだろ。厚労省が計算してないはずがないのになぜ出さないか。出せないからだ。出したらそこですべてが嘘とわかってしまうから出せない。1月7日の〈2447〉は東京都民の244.7パーセント。三千万が感染してたということになる数字であるため出せない。
という以外に考えられないだろう。『ボヘミアン・ラプソディ』を見ておれは初めてこれも知ったが、〈クイーン〉てのはフレディが入る前には大学生が酒場で音を鳴らせてたバンドで、ドラムのロジャー・テイラーは映画の中でフレディから、
「俺がいなきゃお前は歯医者になって週末にブルースでもやるのが関の山」
と言われる。ギターのブライアン・メイは元は天文学の学徒で、同じようにフレディがいなけりゃ、
「宇宙についての誰も読まない論文を書いてた」
と言われる。世の中にはそんなエリートがゴロゴロといて、自分を世界の救世主にしてくれるものを待っている。麻原彰晃が目の前に現れ、「ハルマゲドン」と言ってくれるのを待っている。
「ハルマゲドンが来る。すぐそこにまで迫っている。止められるのはお前だけだ」
と言ってくれるのを待っている。そのときがいつか必ず来ると。
そして、来た。〈新型コロナウイルス〉という形を取って。きのうまでのボクは論文を書いても誰にも読まれない人間だったが今日からは違う。
「感染が拡大すると〈波〉が来るのです! すぐそこにまで迫っています! 止められるのはボクだけです。普通一般の皆さんには〈一日の感染者数〉というのがどう見るものかもわからないかもしれませんがボクは見方を知っています。ボクの目には今日の〈489人〉というのが1月7日の〈2447〉の五分の一のようであっても百万倍も恐ろしい数字なのがわかるのですね。恐ろしい! こんな数字がまさか出るとは! これはコロナが中国政府が中国人以外を皆殺しにするため作ったウイルス兵器であることを完全に証明するものです。こんな数字はそうでなければ絶対に出ないのだから動かぬ証拠だ!」
と叫べばテレビに出られて顔と名前とを誰もが覚えてくれるだろう。ウィー・ウィル・ウィー・ウィル・ロック・中国。そして日本がチャンピオン。すべてが終わったときにボクが、ボクだけが、悪のチャンコロを浄化させた英雄となるのだ。
なんてエリートがゴロゴロしている。
「感染が拡大すると〈波〉が来る」
というのはおれに言わせれば、再三書いてきたように、
「ウイルスとは意思を持ち、人間を人間として認識し、これを憎んで明確な悪意のもとに殺戮しようとする存在だ。戦略をとって行動し、充分な数の人間に感染したのを見定めたところで一気に殲滅を図る」
と言っているのと同じ。そういう意味の言葉になるし、これ以外の意味に決してなることはない。けれどもこれはヒトという愚かな生き物が陥りやすいバカげたものの考え方で、完全に間違っている。絶対に言ってならない言葉なのだが、政治家やマスコミ人種はちょっと小さな〈禍〉が起こればすぐさまにこれを叫んで人心の恐怖を煽ろうとするだろう。そのとき学者は声を合わせて「否」と唱えなければならない。乗っかる学者はトンデモ学者だというのを世に訴えなければならない。
そう言われてきた。はずだが実際にことが起きると、学者の方から声を揃えて、
「感染が拡大すると〈波〉が来るのです! すぐそこにまで迫っています。〈スペイン風邪〉や〈黒死病〉など比べ物にならないほどの災厄があああああ。これは中国が開発したウイルス兵器に違いない! それ以外の可能性はまったく考えられません! 中国人は自分達以外をこの地球から滅ぼす気なのだ!」
と言い出してしまった。それが〈学者〉という生き物の本性であり、〈エリート〉という生き物の本性だった。そしてもちろんテレビに出たがる人間の本性というものであった。
しかしおれにはどう見ても、いずれすべてがガセとわかって終わる話と思うがねえ。正しく見れば再三書いてきた通り、ちょっとタチの悪い風邪で例年よりも多く肺炎の死者が出ただけ。それも初めの半年間だけ。その後には普通の風邪と変わらないものになっていて、貧しい国で貧しい人が不衛生な環境や栄養不足、麻薬やエイズで病への抵抗力を持てずに死んでる。それは以前から毎年のこと。コロナがふたたび強毒化するおそれなど杞憂以外のなんでもない。風邪のウイルスを恨むのは地震や台風や火山の噴火を恨むのと同じで詮のないこととわからなければならない話だ。バカげたデマがまかり通ってしまっているが、実際のところ現代社会、特に日本は大正の関東大震災の後でデマに狂って朝鮮系の人々を虐殺した国ではもうない。ほとんどの人がわけがわからないながらに「学者がそう言うのなら」とマスクを着けて歩いているが、信じ切ってる人間なんか一割もおらず、ウイルスでなく感染者差別が怖くてマスクしているだけなのだから、デマとわかって話が終わるときにみんなが、
「けっ、やっぱりな。どうも話が何から何まで、最初から全部おかしいと思っていたよ」