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グリ森事件プロレス説


 
今回は〈グリコ・森永事件〉についてのまとめとすることにしよう。ほとんどこれまで書いたことの繰り返しになるだろうから、もう全部読んでる者は読まなくてよろしい。
 
おれは、
 
 
   〈グリ森事件プロレス説〉
 
 
を提唱する。あの事件はプロレスだった。一般に〈劇場型犯罪〉と呼ばれ、その通りではあるのだけれど、〈プロレス型犯罪〉と言うのがより適切だった、という考えだ。〈食品会社軍団〉対〈かい人21面相〉の大バトルロイヤルであり、日本中がその対決の観客にされたというのが真相なのだと。
 
が、〈彼ら〉が考えた本当の観客は子供である。〈対決〉を挑んだ企業を見ればいずれもが子供の好きな食べ物を作る会社だった。グリコ・森永・不二家といった製菓会社はもちろんだが、『わんぱくでもいい。たくましく育ってほしい』の丸大食品に、『秀樹感激バーモントカレー』のハウス食品。ウィキペディアで事件をまとめたものによれば〈彼ら〉がマスコミに送った手紙の中には、
「わるでもええ かい人21面相のようになってくれたら」
と書いたものがあったという。
 
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B0%E3%83%AA%E3%82%B3%E3%83%BB%E6%A3%AE%E6%B0%B8%E4%BA%8B%E4%BB%B6
 
これはプロレスだったからだ。そして〈彼ら〉は子供が好きであったからだ。だからこの〈興行〉で、彼らはヒール(悪役)になるのを選んだ。ヒールがいてこそ力道山も、馬場も猪木も善玉になれるからである。つまりグリコが力道山で、馬場が森永で猪木が丸大食品だった。わんぱくでもいい。たくましく育ってほしい。ボンバーエ。真の標的は子供だが、子供達は〈世紀の大イベント〉のリングを囲む観客である。みんなが好きな善玉企業に声援を送る観客なのだ。頑張れグリコ、負けるな森永、ヤングマン! 秀樹と一緒にハウス食品を応援しよう。そうさワーイ、MCA! ワーイ、MCA!
 
というのがおれが考えるあの事件の真相である。だから〈プロレス〉、あるいは〈ヒーローショー型犯罪〉と言ってもいいかもしれない。遊園地とかでやっている『仮面ライダー○○』や『××戦隊□□マン』といった特撮番組の実演ショーだ。怪人がまず舞台に現れて、
「今日はお前らを皆殺しに来たのダ〜」
と言う。チョコレートをかざして見せて、
「このお菓子に毒を入れ、日本中にバラまいてやるのダ〜」
言うとそこに、
「そんなことはさせん!」
と叫んでヒーロー登場。怪人は、
「うぬう、小癪な。返り討ちにしてくれるワ〜」
言ってまずは戦闘員がワラワラと、という。思えば本家・江戸川乱歩『少年探偵』シリーズの〈怪人二十面相〉がそんな悪役だったと言えるが、グリ森事件の犯人達はまさにそれを演じていた。悪党だけれど決して凶悪犯でない。ほんとは気のいい人間達で、子供のために悪役をたのしみながら演じていた。
 
というのがおれが考えるあの事件の真相である。そしてまんまと企業から何億円かのカネをせしめれば彼らの勝ちだ。勝ちだが、最初のグリコ社長誘拐の時点でその気はまったくなかった。このときは一回限りの草試合のつもり。十億プラス金塊というのは「用意できるはずない」と考えた額であり、だから指定の受け渡し場所に行くことすらなかったのだが、〈興行〉に転じてからは目的が変わる。
 
というのがおれが考えるあの事件の真相である。最初の江崎グリコ社長・江崎勝久氏誘拐の目的はカネでなく、身代金を取る気はなかった。それでは何が目的だったのかと言えば、これを書いたらおそらく皆さん、おれをバカだと思うだろうが、この大阪は道頓堀の、
 
   画像:グリコの看板を見上げる上川
 
   【グリコのネオン看板を世界的に有名にすること】
 
だ! おれ自身が自分で書いてて世にもくだらんと思うのだけど、この考えの根拠とするのは、根拠とは言えないかもしれないが、浅田次郎・著『初等ヤクザの犯罪学教室』(1993・KKベストセラーズ/1998・幻冬舎アウトロー文庫)という本があって、そこに、
 
画像:初等ヤクザの犯罪学教室76-77ページ
画像:初等ヤクザの犯罪学教室表紙
 
このような記述がある。これ自体はグリ森事件となんの関係もないのだが、おれの〈プロレス説〉はこれを出発点にしている。
 
読めばわかるだろうが、これには、
《犯罪を飯の種にしている常習犯罪者というものは、ふつうの人間に比べてむしろ陽気でノリのいい人種》
などと書かれていて、その者達が檻の中で無聊を囲いながら、
《「カルビとロースはどっちがうまいか」「馬場・猪木もし戦わば」》
といった程度の低い話をして過ごしているという。一方で殺人犯などは嫌われているのだが、それとは別に皆が憧れる犯罪があってこれが銀行強盗。ブタ箱では、いかにしてそれをやって成功させるか、
《決まって三日に一度くらい真剣に討議さ》
れているという。やってのけたら犯罪者の中で尊敬されるだろう夢の犯罪なのだという。
 
お金が欲しくてやるのでなく、銀行をタタいて逃げて、
「やったぜ、オレはやったぜ!」
という、そっちの方が目的化してるわけですな。もちろんその際、人を殺したり傷つけたりしてはいけない。それでは後に捕まったとき、真の尊敬は得られぬという。
 
おれの〈プロレス説〉はこれを出発点としている。グリ森事件の犯人達はここに描かれているような者達ではあるまいか、というわけだ。事件はおそらく刑務所か、留置場の中の雑談で始まった。〈彼ら〉は三人くらいでツルみ、
 
「娑婆に出たらワシらでひとつ、でっかいことをやりたいな。ほんで世間をアッと言わせてみたいもんやな」
 
と話していた。あるとき出たのが、
 
「せやなあ。グリコなんてどうや」
「グリコ? グリコてなんやねん。キャラメル食うてどないするんや」
「ちゃうて。看板あるやんか。グリコの会社どうにかしていてこましたら、あのネオンがニュースでバーンと映るんちゃうか」
 
ということになった。さらにもしもその事件がおおごとになり、世界的に取り沙汰されることになれば、
 
「世界中のテレビにあれがドーンと映るちゅーこっちゃで。見るやつみんな腰抜かすで。そんでぎょうさんの人がやな、実物を見にやって来るんや」
「おーええやん。オモロイやんか」
「せやろ? 大阪にグリコのネオン看板ありじゃ! 浅草の雷門に人を取られとってええのんか。ワシらで大阪に人を呼ぶんや!」
 
という。ハリウッド映画『ブラック・レイン』で、世界の人が劇場のスクリーンにドドンと映るあれを見るのは1989年。グリ森事件の始まりから5年後のことである。それまであの看板は、日本国内では知られていても、世界の人が知るものでなかった。
 
アフェリエイト:ブラック・レイン
 
知られてなければそれは存在していないのと同じことで、「見たい」と思ってもらえない。だから、ワシらで知らしめよう。雷門がなんぼのもんじゃ。グリコのネオン看板があるのを世界に教えたるんやあーっ!!
 
作品名:端数報告4 作家名:島田信之