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端数報告4

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力を見せつけたのだから、あらためて地球に降伏を迫ればいいのになぜしないのか。ひょっとすると映画の最後にドドンと出てくる超々巨大戦艦は、実は張りぼてで戦う力はまったくなかったりするのじゃないか。
 
腹に抱いてるでっかい砲は一発撃てばおしまいのもん。だからそれがバレないうちに、早く逃げねばと考えている。実は負け惜しみの強い孤独で矮小な人間が、「おぼえてろよーっ!」と泣きながら去ってくところだったりして。
 
だから別に古代進は特攻なんかしなくても実はよかったんだったりして。などと今にあれを見ながら思ってしまったりするのだが、〈かい人21面相〉の、
《悪党人生 おもろいで》
も実はそれと同じではないのか。
 
彼らは最後にその言葉を残して消えた。本当に、悪党人生がおもしろいから悪党人生おもろいでと書いたのだろうか。県警の本部長の自殺によって警察に、
「勝った」
と言える状況なのなら、それを機に、企業への脅しをしてもよいのじゃないか。
 
「どうや、わかったろう。わしらが社会の法や。秩序や。よって当然、お前んとこの会社もみんなわしらのもんや。カネを出せ」
 
とやってよかったんじゃないのか。もはやどんな企業も〈彼ら〉の言われるままにカネを出すしかなくなっていたとこなんじゃないのか?
 
元々それが目的とかいう話に〈識者〉と呼ばれる者らはしていたのじゃなかったのか。それがどうして、
《くいもんの 会社 いびるの もお やめや》
《このあと きょおはく するもん にせもんや》
ということになるのだろう。〈識者〉はこれが極悪人が書いたものだと言うがおれにはそう見えない。悪党だけれど根は善良なやつが書いたもののように見える。
 
そして、哀しみの思いを感じる。こんなことは望んでなかった。なんでや。なんでこうなったんや。遊び半分で始めたことが、なんでどうしてこないなことに。
 
という声が行間から聞こえる気がする。おれが思うにこの事件の犯人達は、決して社会に仇なすような種類の人間達ではない。それをよしとする者達でない。
 
だから犯行をやめたのだ。だからこのような手紙を書いた。ウィキには、
 
   *
 
事件が発生した1984年には、かい人21面相に便乗して模倣犯が食品企業を脅した企業恐喝事件が31件発生したが、全て摘発された(1984年の事件で唯一摘発されなかったのが、本家本元のグリコ・森永事件である)。その後、事件を模倣した犯罪は444件に上り、うち206件が検挙された。この中には小中学生がファミコンほしさにネスレ日本を恐喝する、という事件もあった。
 
   *
 
という記述があり、さらに、
 
   *
 
これらの便乗犯を、筑波大学教授の小田晋は「コバンザメ犯罪」と名付けた。本物の犯人グループも脅迫状で偽者との取り引きに応じないように企業に呼びかけた。なお、犯人グループは江崎勝久の声を録音したテープを同封することで自らが本物である証としていた。
 
   *
 
としているが、NHK『未解決事件』が省いて読まない、
《1年と 5か月も なにしとんねん
 わしら みたいな 悪 ほっとったら あかんで
 まねする あほ まだ ぎょうさん おる》
はそれを指している。彼らは便乗犯が出るのをこころよく思っていないのだが、NHKはこれを読んだら彼らが決して悪い者ではないかのように見えてしまうから読まないのだ。
 
何をどうしても極悪人ということにしたいからこれを読まない。元・毎日新聞記者の吉山利嗣が、
 
画像:吉山利嗣(犯人が挙がらなかったから)
 
と言うのを「おっしゃる通りでしょ」ということにしたいからこれを読まない。
 
そして彼らは、
《このあと きょおはく するもん にせもんや》
とも書いた。だからロッテを脅迫した者も、一度目は成功したが二度目には、この終結宣言の翌年のことだったため捕まった。
 
それは〈彼ら〉がこう書いてくれていたため捕まったのだ。そうではないのか? 犯人達は真似するアホがぎょうさん出るのを最後に止めていってくれた。元はと言えば連中がそもそもいちばん悪いのだけどそれはそれとしてだ。手紙にわざわざこんなこと書かなくていいのに書いてくれたのだ。
 
滋賀県警本部長自殺の後で〈彼ら〉が行動を再開すれば便乗犯がいよいよ多く出ただろう。そのことごとくが成功することになりさえしたかもしれない。実はロッテ以外にも、便乗犯に一度だけカネを払って黙っている企業があったりするのかもしれない。だから〈彼ら〉がまた始めれば、日本は企業脅迫者の天国ということになってしまう……。
 
〈彼ら〉はそこに気がついて、そんなことになってはいけないと考えるからこそ終結宣言の手紙を書いた。
 
というのは穿(うが)ち過ぎだろうか。かもしれないが、おれとしては、そういうことということにしたい。彼らの言う「こおでん」にはそんな意味があるのだと。
 
ともかく、おれが見るところ、有名な、
《悪党人生 おもろいで》
とは慚愧(ざんき)の言葉である。「こんなはずでなかった。何もかもうまくいかなかった」という悲嘆の叫びだと思う。「でっかいことをやって世間をアッと言わせてみたい」というだけの考えで始めたことが社会に災厄をもたらし、自分達はテロリストにされてしまった。
 
それは全部がこの野郎の、
 
画像:加藤譲
 
煽情記事に世の識者さんどもが我も我もと乗っかったことによっているのだが、〈識者〉というのは小さなことをおおげさにして、箸が転がったのを見てもミゾウユウの危機だなんだとこの世の終わりが来たかのようにギャアギャアわめき立てる、勉強できても頭がカラッポな、無責任で昨日に言ったことを忘れて毎日違うことを言う、社会にとって有害な寄生虫以外のなんでもない存在のことを指す言葉だ。グリ森事件についてはさまざまな説があり、ウィキによれば、
 
   *
 
犯人像の推測
 
この事件の犯人については、「北朝鮮の工作員」、「大阪ニセ夜間金庫事件の犯人」、総会屋、株価操作を狙った仕手グループ、元あるいは現職警察官、「元左翼活動家」、各種の陰謀説など多くの説があり、未だに議論は尽きていない。キツネ目の男と呼ばれる不審者の似顔絵も作成された。
 
   *
 
という話だが、その主だったものを見てみよう。最初に〈元グリコ関係者説〉。さっき一度引いたものをもう一度見せるが、
 
   *
 
江崎家やグリコの内部事情に犯人グループが通じていたことから出た説である。
 
作品名:端数報告4 作家名:島田信之