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端数報告4

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書かれるが、相手が便乗犯だったというのはともかくおれに言わせれば、森永もこうすべきだった。ただしロッテは3000万払った後ですぐ警察に届けるべきだった。便乗犯の野郎は欲をかくところがアマチュアだな。森永は裏取引に応じる代わりに、
 
「カネを出すのはお客様の安全のためだ。そしてこの後で警察に届ける。今後は二度と取引はしない」
 
とやるべきだった。多少の非難は受けるだろうが警察を間に通せばグリコの二の舞になるだけなのがわからねばいけない。マスコミが何を言おうが世の人々はすぐ忘れるし、〈彼ら〉の当初の目的がおれの考え通りにグリコのネオン看板を世界的に有名にすることだったとしたら、1億を手にしたことで満足し、
 
「実は」
 
という手紙をマスコミ各社に送っていたかもしれない。
 
だがそういうことにはならずに、ウィキによれば、
 
   *
 
事件の終息
 
1985年8月7日、ハウス食品事件で不審車両を取り逃がした滋賀県警本部長が自身の退職の日に本部長公舎の庭で焼身自殺をする。遺書は残されていないが、一般に失態を苦にしたものと解釈されている。ハウス食品事件の失態の責任を全て負わされたことに抗議するための自殺だったとする説もある。本部長はノンキャリアからの叩き上げであった。
 
8月12日、犯人側から「くいもんの 会社 いびるの もお やめや」との終息宣言が送りつけられた。理由は、その5日前に自殺した滋賀県警本部長への香典代わりというものだった。
 
   *
 
そしてこの後、犯人達の動きが完全になくなったものとされる。NHK『未解決事件』はこの〈終結宣言の手紙〉というのを、
 
画像:最後の手紙
 
こう映す。これについてはそのままでなく、文にちょっと手を入れたうえで書き出してみると、
 
   *
 
 国会議員の皆さんへ。
 
 あんたら忘れっぽいな。
 わしらの法律どないなっとるねん。
 早よ、死刑入りの作ってや。
 滋賀県警本部長の山本が自殺しちまいよった。
 滋賀にはわしらの仲間もいなければアジトもないのにアホやな。
 死ぬんやったら兵庫犬警のヨシノか大阪婦警のシカタやで。
 やつら、1年と5ヵ月も何しとんねん。
 わしらみたいなワルをほっとったらあかんで。
 真似するアホがまだ仰山おる。
 叩き上げの山本が男らしゅうに死によったさかいに、
 わしら、香典やることにした。
 食いもんの会社イビるのもう止めや。
 この後に脅迫するもんがいたら偽物や。
 ご優秀な警察に届けたらええ。
 大学出のヨシノやシカタが適宜計らってくれるで。
 わしら、悪や。
 食いもんの会社イビるの止めてもまだなんぼでもやることはある。
 悪党人生おもろいで。
 
 かい人21面相
 
   *
 
こんなところか。ちなみに「シカタ」というのはもちろん、
 
画像:四方修
 
このおっさんのこと。なのだが、しかしNHK『未解決事件』という番組は、ナレーターがこの手紙を憎々しげに読みはするが、例によって、
 
   *
 
「叩き上げの山本、男らしうに死によったさかいに、わしら香典やることにした。食いもんの会社いびるのもうやめや。このあと脅迫するもんニセもんや。優秀な警察へ届けたらええ。わしら、悪や。食いもんの会社いびるのやめてもまだなんぼでもやることある。悪党人生おもろいで。かい人21面相」
 
画像:NHKスペシャル『グリコ・森永』番組タイトル
 
このように一部だけを抜粋して読む。つまり手紙の前半と、途中の、
《大学での よしのや しかたが あんじょお してくれるで》
の一行は省かれている。
 
事件の謎を探るうえで必要のない情報だから? 警察内部のいがみ合いは犯人達の問題じゃないと。NHKの論理では、そういうことになるのかもしれない。しかしおれは、この番組が声に出して読まなかった部分にこそ、事件の謎を解く手掛かりがあるのではないかとやはり感じる。
 
この番組の制作者たちは大阪府警と兵庫県警の対立を犯人達と無関係とするのかもしれないが、ではなぜ〈彼ら〉は彼らの終結宣言の中でこれに触れるのか。それを一連の犯行に利用してきたからだろう。結果として、滋賀の県警本部長が自殺することになってしまった。
 
彼らにとっては思いがけないことであり、望んでいないことだった。NHKのナレーターは憎々しげにこれを読み、憎々しく読めないところは省いて読まない。ここだけ聞くと、まあ確かに、いかにも悪い人間がワハハハハと笑いながら去っていったかのようである。
 
たとえば昔にあったアニメで悪人が、
 
   *
 
「どうだ、わかっただろう。宇宙の絶対的支配者はただひとり、この全能なる私なのだ。命あるものはその血の一滴まで俺のものだ。宇宙はすべてが我の意志のままにある。私が宇宙の法だ。宇宙の秩序だ。よって当然、地球もこの私のものだ。うわははは、わーはっはっは」
 
アフェリエイト:さらば宇宙戦艦ヤマト
 
などと笑いながらバカでっかい宇宙戦艦で去っていったかのようである。このアニメではこれを聞いた主人公が、
「違う! 断じて違う!」
と叫んでカミカゼ特攻するけれど、この悪役の戦艦は、でかいことを言う割にはどうしてもう武器もなくエンジンのパワーだってまともに出ないはずの〈ヤマト〉に追いつかれ、途中で迎撃することもできずにドカンといくのだろうか。
 
全長何キロメートルもある船が一発で轟沈するのは〈ヤマト〉より一緒に突っ込むテレサの反物質の力によるのが大きいらしいからまあいいとして、ワーハッハと笑いながら去ってくところがそもそも変だ。
「地球もこの私のものだ」
と言うのならそのその戦艦のビーム砲なりなんなりでもって〈ヤマト〉を沈め、地球に降伏を迫るなり攻め込むなりすりゃいいじゃないか。
 
――などとそれこそグリ森事件と関係のない話をしたが、ようするに、この手紙の中でも特に有名な、
《悪党人生 おもろいで》
の一行は、〈彼ら〉が極悪人の証拠――悪党人生がおもしろいから悪党人生おもろいでと書くほどふざけたやつらの証拠とされる。ふざけたやつらであるがゆえにどんなことでも平気でできるやつらであったことの証拠と一般に思われている。ざまあみさらせと勝ち誇り、世をあざけり笑いながら姿を消したと思われている。だからスタンレーの魔女は今も笑っているに違いない。
 
画像:ネオンを見上げる上川 手持ち斜め
 
〈かい人21面相〉は、今もどこかで日本社会を笑っているに違いない……一般にそう思われている。だからこんな、
 
画像:吉山利嗣(犯人が挙がらなかったから)
 
こんなことを言うやつがいたりする。しかし、
 
   本当にそうだろうか?
 
と思うのだ。おれは〈彼ら〉の最後の手紙に手を入れ書き写しながら、これは悪人が世をあざ笑いながら書いたものと思えなかった。
 
逆だ。慟哭の念を感じた。これを書いた人間は深く悲しんでいる、と思った。『さらばヤマト』のラスボス、ズウォーダー大帝は、
「どうだ、わかっただろう。うんぬんかんぬん、わーはっはっは」
と笑いながらに巨大戦艦で去っていくが、なんで去っていくのだろうか。
 
作品名:端数報告4 作家名:島田信之