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ということになるのは避けられたのだから。
 
が、しかし、これもやっぱりまた読売の加藤の野郎が、
 
   *
 
記者D「毒物が青酸ソーダやて断定された」
記者C「今度こそほんまもんか」
加藤「ヤバ過ぎるで。ホンマにやりよった」
  
ナレーターによる手紙の読み上げ「菓子やったらなんとゆうても森永やで。わしらが特別に味つけたった。青酸ソーダの味ついて少し辛口や。博多から東京までの店に20個置いてある。10日したら毒入り書いとらんのを30個全国の店へ置く。たのしみに待っとれや」
 
記者A「上はこれをどう扱うつもりですかね」
 
画像:全国のおかあちゃんえ
 
と言うのに、
 
   *
 
「考えるまでもないやろう。やつら本気で国民全員をターゲットにしてきよったんやで。絶対に書くべきや。ふざけよって……」
 
画像:NHKスペシャル『グリコ・森永』番組タイトル
  
と言って、演じる上川が書く。それを、記者Cを演じる宅麻伸が、
「おいおい、大丈夫かよ。ちょっとまずいんじゃないのかそいつは」
という顔で見る。
 
画像:宅麻伸
 
という、これによってそうなったらしい。止めろ! だからこいつを止めろ! 何が、
「考えるまでもないやろう」
だ。バカあっ! 少しは考えろ!
 
この手紙にしても犯人達が本当に言いたいことはナレーターが読まない部分にこそあるようにおれには思えてならないのだが、またここに全文を書き出すから読んで考えてみてください。これが「本気で国民全員をターゲットにして」いるものなのかどうか。
 
   *
 
 全国の おかあちゃん え
 
 しょくよくの 秋や
 かしが うまいで
 かしやったら なんとゆうても 森永やで
 わしらが とくべつに あじ つけたった
 青さんソーダの あじついて すこし からくちや
 むしばに ならへんよって お子たちえ こおたりや
 からくちの かし どくいりと かいた 紙 はっている
 はかた から 東京までの 店に 20こ おいてある
 青さん0・2グラムと 0・5グラムの 2しゅるい ある
 10日したら どくいり かいとらんのを 30こ 全国の
 店に おく
 そのあとも ぎょうさん よおい してるで
 たのしみに まっとれや
 森永乳業は せいかと ちがう
 あんぜん やで
 
 かい人21面相
 
 かあちゃん たち しってるか
 警さつちょうの すずきと 大さか婦警の しかたと
 兵ご犬警の よしのが わしら つかまえられへんと
 やめなあかんのやて  きのどく やな
 
             |
      ――――――――――――――
       すずき   | しかた
 そろそろ やめまひょか | しかた ありまへんな
             |
           (相合傘)
 
   *
 
これもグリコの時と同じで、普通の人が普通に読んだら、
「ただの脅しだろ」
と思うもんとしか思えない。って言うか、これは憶えているが、高校生のおれはこの時そう思った。
 
のだけど、しかし世間ではそうでない人がどうやら多くいたようで、誰か知らないがこんな人がカメラを向けられ、
 
画像:子供さんこんな読めませんわな
 
こんなことを言うことになる。いや、読めるでしょう。おこづかいをもらって使える歳の子ならば間違いなく読めます。しかし、
 
画像:もしくは勝手に開けて食べられたらえらいことやしね
 
何言ってんだこのおっさんは。しかし、本当にこの時は、日本中でバカがギャアギャア騒ぎたててうるさくてしょうがなかったものだ。家の前をひっきりなしに、町の議員が街宣カーで、
 
「ワタシがこの下妻の食の安全を守ります!」
 
と流して通るのでもうたまったもんじゃない。学校へ行けば、
 
「お前、よくそんなもん食えるな。死ぬぞ、絶対に死ぬ!」
 
と言うやつがいる。おれが、
 
「いや、あれの犯人達は、人を殺す気はないだろ」
 
と言うと、
 
「バカかお前わあっ! 次は『毒入り』と書いてないのを日本中にバラ撒くという強迫だろうが! それを知らんのか!」
「そうなの?(知らなかった) でもあのお菓子は封が切られてて……」
「だから次にはキッチリと封を閉じ直して店に置くってことなんだよ! まだ店にある森永の菓子を買って食うのがバカだと言うつもりなのさ!」
「わかんねえな。なんでそんな……」
「お前ニュース見てねえのか。偉い人がみんなそう言ってるだろう!」
「ああ。聞いた気もするけど、でもそもそも……」
「バカかお前は! バカかお前は! バカかお前は!」
 
と、そんな調子で話にならない。このとき店に置かれた菓子は、どれもこのように、
 
画像:毒入り菓子
 
セロハン包装が切られているのが見てわかる状態で、閉じ直そうとした形跡もなかったとされている。おれを含めた一般人の大多数は、
「やつらは人が食べて死ぬことがないように気を配ってはいたってことだろ」
と話していたと思うが、この点をNHK『未解決事件』は言わぬしウィキにも書かれてないな。どうやらいつの間にか、なかったことにされてるようだが、当時学校にいたそいつやそいつの同類が言うには、
 
「推理作家とかなんかの偉い人達みんなが、まだお店で売ってる菓子には必ず何個かに一個の割で毒が入ってるに違いないって言ってるんだよ。みんながみんな! 頭がすごくいい人はみんなそういう考えなの! 犯人達はグリコの社長を誘拐した最初のときからこれを狙っていたんだって、頭のいい人はみな言ってんの! これで全部説明がつくだろ? 最初から無差別大量殺戮が狙いだったとすればすべての謎が消える、と偉い人が言ってるわけだよ。みんながみんな。作家とかが。だからお前が食ってるそれには必ず毒が入ってるの。気にならないの? バカじゃねえの? お前ほんとバカじゃねえの?」
 
なんて具合で本当に参った。だがそうなるのも元はと言えば、森永が犯人達と裏取引せずに警察に頼ったからだ。結果として毒入り菓子を店に置かれることになった。
 
今のおれが思うに〈彼ら〉はできればこんなことしたくなかったに違いない。だが「グリコと同じ目に遭いたくなければ」と言って脅迫を始めた以上、相手が従わなければ報復するしかない。なんとかして森永に、
「裏取引に応じる。今度は警察にカネの渡し場を教えない」
と言わせたかった。それがあの手紙の最後の、
《しかた ありまへんな》
という言葉の意味なのではないか。
 
おれはそう思う。ウィキによれば後で〈犯人〉と裏取引をしたのがロッテだ。それはこう、
 
   *
 
1985年には、ニコチン入りの製品をばらまくと脅されたロッテが警察に届けずに、3000万円を支払う裏取引に応じた。翌1986年(昭和61年)に再び5000万円の支払いを要求されたために、今度は警察に通報して当時55歳の22号と名乗っていた男は7月3日に逮捕された。この事件でいったんは脅迫犯に屈して裏取引に応じたロッテは批判にさらされ、客の安全が第一だったと弁明した。
 
   *
 
作品名:端数報告4 作家名:島田信之