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とやるわけだ。地球の市民は最初は怒るがだんだん考えが変わってくる。「こっちに落ちたらどうしてくれる」と言い出す中立国などが出る。そして次第に「元はと言えば政府が苛烈な搾取をするからだろうが」と言う者が増えていき、コロニーの独立を認める動きが高まってゆく……。
 
アフェリエイト:月は無慈悲な夜の女王
 
というような内容だ。おれが思うに彼ら、〈かい人21面相〉一味は、これと同じ考え方の脅迫をしようとしていたのじゃないか。
 
致死量の毒で人が死ぬことになってほしくないのなら20日以内にカネを出せ。警察を間に入れるな、というわけだ。それが計画だったのだが、〈ミスター・グリコ 加藤譲〉がそう考えることはなかった。この男は〈仮面ライダー 本郷猛〉であるがゆえに、
「毒を増やしていくだとお? そんなことはさせん!」
としか思わない。毒を増やしていくことの意味をそもそも考えない。店の棚からグリコの製品をなくさせて、会社に打撃を与える作戦なのだとだけ受け取ってしまう。
 
この男を始めとするマスコミ各社がそう報道したために、結果がその通りになった。やつらは極悪犯なのだから、やると言ったらやるでしょう。10個どころか100個200個、20日後と言わずに明日、日本全国津々浦々にバラ撒く気かもしれません。いや、そうに違いない。そうに違いないですよお!!!!!という話にまでされてしまう。
 
これはグリコに怨恨を持つ者達の仕業だからだ、というわけだ。子供を死なせて、
「元はと言えばグリコが悪い。その子はグリコが殺したのだ」
という話にする気なんです。江崎グリコという会社は、過去にそれほど悪いことをやっているのがいよいよ確実となりましたネ。一体何をしてるんでしょう。そっちの方がボクはむしろ気になるなあ。
 
などという話にまでされてしまう。〈識者〉と呼ばれる者達が揃ってそんな調子であるためグリコはどえらい損害を蒙ることになってしまった。
 
だが一般に見られているその考えとまったく違い、犯人達にそんな気はなかった。『月は無慈悲――』の例で言うならば、無人の砂漠に石をひとつ落としただけのことなのに、
 
「次は月を落とす気だーっ!! やつらは地球を粉々にする気なんだーっ!!!!!」
 
という話になぜかなってしまって〈地球人〉がみんな火星に逃げてしまったようなもので、そんな脅迫してねえ!という。そこで、
「グリコゆるしたる」
という手紙を送り、いったんは全部やめようと考える。
 
次にその全文を挙げるが、心を一度カラにして、素直な気持ちで読んでもらいたい。こうだ。
 
   *
 
 全国のファン の みなさん え
 
 わしら もう あきてきた
 社長が あたま さげて まわっとる 男が あたま さげとん
 のや ゆるして やっても ええやろ
 ナカマの うちに 4才の こども いて まい日 グリコ
 ほしい ゆうて ないている わしらも さいきん たべ
 へんけど むかしは よう くうた もんや
 こども なかせたら あかん うまい くいもん のうなったら
 わしらも こまる
 江崎グリコ ゆるしたる  スーパーも グリコ うってええ
 青さんいりの チョコレート 18こ は もやしてもうた
 1こは 5月9日に ダイエーイバラキ店え おいた
 どおなったか しらん  1こは べつの 店から 5月18日に
 とりもどした
 日本は むしあつう なってきた  ひとしごと したら
 ヨオロッパえ いくつもりや  チュウリヒ ロンドン パリ
 の どこかに おる
 けいさつも ようやった これに こりんと がんばりや
 ホームズ君でも わしらには かてんのや  かい人20面相
 よんだら あたま ようなるで
 けいさつの ヨオロッパ ツアー
   かい人21面相を つかまえに ヨオロッパえ いこう
   たびの おともに グリコの ポッキー
   わしも たべてる おいしい グリコ
 かい人21面相
 らい年 1月に かえってくる
 
   *
 
という。『怪人二十面相』を読んだら頭良うなるで、か。ええこと書いてはるなあ。
 
と、おれなんかは思うのだけどいかがだろうか。「来年1月に帰ってくる」と書いてはいるが、彼らはこのときすべてやめる考えだった。
 
考えだったが、しばらくして、
 
 
   「丸大食品に狙いを変えて、今度はうまくやってやろう」
 
 
と思い直して作戦を練り出す。おれの考えで言う〈プロレス〉の始まりだ。
 
   * * * * * * * * * *
 
――と、しかし本稿では、丸大食品の脅迫については考察しない。事件の真相を探るうえで重要と思わないからだ。とにかく、〈彼ら〉の犯罪は一般に見られているのと違って〈プロレス型犯罪〉だったから、グリコからカネを取れぬと判断すると目標を丸大に変え、丸大もダメと思えば森永に変える。
 
というわけでより重要で事件のクライマックスと言える森永に対する脅迫である。ウィキはこの件について、
 
   *
 
森永製菓脅迫事件
 
1984年9月12日朝、大阪府大阪市の森永製菓関西販売本部に数千万円を要求する脅迫状が届く。脅迫状には「グリコと同じめにあいたくなければ、1億円出せ」「要求に応じなければ、製品に青酸ソーダを入れて店頭に置く」と書かれており、青酸入りの菓子が同封されていた。脅迫状には、グリコが犯人グループに6億円を支払ったと書かれていたが、真偽のほどは定かではない。
 
9月18日に犯人から関西支社に電話があり、子供の声で現金の受渡し場所を指定した内容の録音を、5回繰り返し再生した。その後、指定場所に行くと別の指定場所で現金を置くよう指示があり、現金を置くも、犯人は姿を現さなかった。この電話は10月11日に一般に公開された。
 
   *
 
と書いているが、この、
《脅迫状には、グリコが犯人グループに6億円を支払ったと書かれていた》
というのはおそらくフカシだろう。彼らはなんとか森永と裏取引したかった。「警察には報せずに1億出すのが利口やで」、と諭しかけている。
「警察は手柄以外は頭にない。お宅の会社のことなんか気にかけはせんのやから。マスコミに知られたならばグリコと同じになるだけやで。だから警察に報せずに1億出すのが利口なんや」
という、それがこれで言いたいことだ。そしておれの考えでは、森永はそうすべきだった。1億払ってしまいさえすれば、後の、
 
   *
 
ナレーション「青酸入りという報道に衝撃が走った。森永製菓の商品は店頭から次々に撤去され、返品された商品は万一の事態を考え、廃棄処分にされた」
当時の森永製菓物流部長「精魂込めて作ったのがこんなふうにねえ、もう、廃棄されるなんてことは見るに堪えないですよね」
 
画像:物流部長 菓子廃棄処分
 
ナレーション「森永製菓は九割の減産に追い込まれ、大量のパート従業員が解雇された。(略)犯行はとどまることなく、森永製菓の被害総額は80億円を超えた。事態を打開するため、森永製菓は袋詰めの千円パックを作り、社員みずからが街頭で直接売り始めた」
 
画像:関西本部長 社員の街頭販売
 
作品名:端数報告4 作家名:島田信之