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端数報告4

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こう書いて出したらしい。見てわかると思うが載せたのは手紙の全文でなく書き出しのところだけ。それ以外の部分については、画面から読める部分を見るに相当、「乗っかって大騒ぎ」する書き方をしてるとおぼしい。
 
再現ドラマは上川演じる加藤譲がこれに反対していたように描いていたが、実際がどうだったのかは藪の中だ。画面からなんとか判読できるのは脅迫状の内容を説明する部分だけだが、犯人が「また けいさつで ごう盗 でるで」と書いたところの説明の後に、
 
   *
 
 さらにグリコ事件の“本題”に入り、「グリコは なまいき やから わしらが ゆうたとおり グリコの せい品に せいさんソーダ いれた 0.05グラム いれたのを 2こ なごや おか山の あいだ の 店へ おいた」などと書かれていく。
 青酸ソーダの毒については「死なへんけど にゅう院 する グリコをたべて びょう院え いこう 10日したら(略)
 
   *
 
という調子。「このまま載せたら犯人の思うツボや」からそのまま載せずに自分の文でサンドイッチして載せる、という理屈なのかもしれないが、これでは、
 
「犯人が書いてることを文字通りに受け取るな。正しい眼で事件を見ているオレの眼でだけ事件を見ろ」
 
と言ってるのと同じだろう。実際に、これをやられると読者は記事を書いた者のフィルターを通してでしか事件を見ることができなくなる。テレビなんかも、これに限らずこういう事件があるたびいつも、
 
「まずこのところを見てください。犯人は『グリコは生意気やからグリコの製品に青酸ソーダ入れた』なんてことを書いているんですよ。『グリコは生意気やからグリコの製品に青酸ソーダ入れた』なんてことを! 『グリコは生意気やからグリコの製品に青酸ソーダ入れた』なんていうことをです! 解説の○○さん、これをどう見ますか?」
「ハイ、それはですね、うんぬんかんぬん、かんぬんうんぬん……」
「うーんなるほど、犯人は、本気だということなんですね! 非道極まる者達だから、何千人もほんとに殺す気でいるのだと! そして警察に挑戦している。おちょくってるんだ! 遊んでるんだ! 許せない! 決して許してはいけませんよね! こんなやつらは! こんなやつらは! そして次です。犯人は『死なへんけど入院する。グリコを食べて病院へ行こう』などと書いている! 『死なへんけど入院する。グリコを食べて病院へ行こう』ですよ。どうですか。『死なへんけど入院する。グリコを食べて病院へ行こう』などと書いてるんです! 『死なへんけど入院する』なんて! 『グリコを食べて病院へ行こう』なんて! まったく、なんというやつらなんだ。こんなことして何がおもしろいと言うんだ。ふざけるのもたいがいにしろとワタシは言いたい! 解説の○○さん、これをどう見ますか?」
「ハイ、それはですね、うんぬんかんぬん、かんぬんうんぬん……」
「うーんなるほど……」
 
なんて調子だが、これでその辺のおばちゃんなんか、
 
「あの犯人は本気だから、グリコの菓子には本当に毒が入ってるんですってねえ」
 
と言ってしまうことになる。
 
けれどもさっき出した手紙を文字に起こしてあらためて出すから、人が横から口を出してこないところで全文を自分の目で読んでほしい。おれが思うに、普通の人が普通に読んだら、
 
「こりゃハッタリだろう。カネが欲しくてこう書いてるだけじゃないかな。本当に毒入り菓子をばらまく気とは思えないね」
 
と言いそうなもんじゃないかな。
 
   *
 
 まづしい けいさつ官たち え
 
 うそは ドロボーの はじまり ゆうたけど まちがい やった
 けいさつの うそは ごう盗の はじまり やった
 まえの TEL とおくから かけたのを また かくしとるやろ
 また けいさつで ごう盗 でるで
 グリコは なまいき やから わしらが ゆうたとおり
 グリコの せい品に せいさんソーダ いれた
 0.05グラム いれたのを 2こ なごや おか山の あいだ
 の 店へ おいた
 死なへんけど にゅう院 する
 グリコをたべて びょう院え いこう
 10日したら 0.1グラムいれたのを 8こ 東京 ふくおか
 の あいだの 店え おく
 また10日したら 0.2グラム いれたのを 10こ 北海道
 おきなわ の あいだの 店え おく
 グリコを たべて はか場え いこう
 
 かい人21面相

   *
 
こうだが《まえの TEL とおくから》などと書いているのがなんのことなのかはおれにはわからない。とにかく読売新聞と他のマスコミ各社によって「そのまま」でなく歪めた報道をされたことで、グリコの商品は店から撤去という次第となってしまう。おれにはそうとしか思えんのだが、加藤はさらに、
 
   *
 
加藤「誰かがゆうとったけど、まさに劇場やな」
記者A「え?」
加藤「犯人がマスコミを利用して劇場を作り、そこで、ハデな芝居を次々に打っていく。観客は、国民全員や」
 
画像:NHKスペシャル『グリコ・森永』番組タイトル
 
と言う。だからそうではなくてマスコミが犯人を利用して劇場を作り、
「○○一座の公演だヨーっ!」
と囃し立てていたのとちゃいますのんか。でもって、
 
画像:グリコ関係者に重点 「やっぱり内部に仲間が」とか、
画像:強まる怨恨説 「いよいよ怨恨に違いない」とか、
 
いった提灯記事を次々と打って出したんじゃないのですか。結果として、
 
   *
 
ナレーション「犯人は誰か。報道合戦は過熱した。グリコの内部犯行を窺わせる記事。企業のイメージは大きく傷ついた。青酸ソーダを入れたという犯人の挑戦状が掲載されると、グリコの商品は店頭から消えた。株価は急落した」
 
画像:工場空撮1 空撮2
 
と言って番組は、ヘリから遠ざかりながら撮ったこんな当時の映像を見せる。チェルノブイリか福島の原発事故かという感じだ。
 
加藤は再び刑事を訪ね、
 
   *
 
刑事「今回の挑戦状やけどな」
加藤「うん」
刑事「江崎社長は、警察が報道を止めてくれへんかったことを不満に思うてるらしいで。いま恐れてるんは、江崎社長が警察もマスコミも信用せえへんようになることや。唯一、犯人と接触しとる人なんや。その人に口を閉じられたらアウトや。最悪、犯人と裏取引することかて……」
加藤「何か兆候があるんか」
刑事「いいや。もしそんなことになったら、犯人逮捕は完全になくなる。せやから、グリコを追いつめんといてほしいんや」
加藤「確かにここんところ、書き過ぎの面はあると思う。他社を意識して、どんどんグリコの記事の扱いがふくれとる。せやけど、ぼくらは現場の記者で、記事の扱いは決められへんのや」
 
画像:NHKスペシャル『グリコ・森永』番組タイトル
 
作品名:端数報告4 作家名:島田信之