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プトレマイオス・マリッジ・トラベル

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 船旅は続いている。私たちはホテル・ヴァルゴへやってくる。オーナーのスピカがフロントで私たちを迎え入れる。
「新婚旅行ですね? ご予約なしでも承りますよ」
 私たちは最上階の部屋へ通される。長旅の疲れが今になって押し寄せ、私を眠りが誘う。シャワーを浴びる彼に、ガラスのドアごしに話しかける。
「少し、散歩に行ってくる」
「大丈夫かい? 疲れているんだろう」
「いいの。これぐらいが心地いいから」
「気をつけて。すぐに帰ってこないと、変な奴につきまとわれてしまうよ」
「ありがとう。いってきます」
 私はエレベーターに乗って一階へ降りていく。小さな箱の中にいるのは私だけだ。世界から断絶され、涙をこらえている。一人はとても恐ろしい。
 エレベーターのドアが開く。一階、フロントに出る。
 スピカが私に気付く。
「どうかされましたか?」
「散歩に行こうと思って」
「こんな夜更けに?」
「そう、こんな夜更けに」
「では私がお供しましょう」
「仕事はどうするの?」
「他の者が」
 スピカがフロントから抜け出すと、すぐに誰かがそこへ入っていった。まるで初めからそこにいるように、風景として完成されていた。あの場所は、誰がいても変わらないのかもしれない。私が頭を働かせていると、スピカが私の手をとった。
「では参りましょう」
 ホテルの外には小型の潜宙艇で出る。
「ホテル・ヴァルゴはそれだけで一つの惑星になっているんです」
 私たちが乗っていた船も下層のパーキングにつながれている。離れていくホテルを眺めながら、私はこのまま彼を置いて去ってしまうシナリオを連想する。
「悩み事でも?」
 スピカが問う。
「いいえ、何もない。私、何も考えてなんていないもの」
「本当にそうでしょうか」
 スピカは舵をとりながら私に向かって微笑む。
「マリッジ・ブルーというやつかもしれませんね」
 私の心は青に染まっていく。
 どこかの流星が目の端を流れていく。