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プトレマイオス・マリッジ・トラベル

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 船旅は続く。私たちはキャンサーの港で足を止める。
「だれもいないわ」
 巨大な駅のホームには一人も歩く姿がない。天井に吊るされた三十六のプレセペの光が、ホールの床を煌々と照らしている。わたしはがらんどうのホールを進む。ヒールの音がカツカツと空間を闊歩している。
「昔は人がいたのかもしれないね」
 彼は壁のポスターを眺めながら呟く。古い映画の告知ポスターが貼られていた。何十年も前のせいか、すっかり色あせていた。
 彼と私の距離は遠く、私はふと隠れてしまいたくなった。彼は私を探してくれるだろうか。
 ホールからのびる通路の一つに私は体を滑り込ませた。壁際に寄ると、もう彼から私を見ることはできない。
 彼が私の名を呼ぶ。
 私は答えない。
 呼ぶ。
 答えない。
 呼ぶ。
 答えない。
 答えない。
 答えない……。
 やがて彼の声が途切れる。私は緊張を口から吐き出し、体を緩める。自分が何をしているのか、自分でわかっていない。ただ、彼に置いていかれるのではないかと不安になっている。私はそっと通路から顔を出す。誰もいないホールを駆け抜け、船の元へ戻る。
 そこに彼が立っている。
「戻ってきたね」
 彼が私に微笑む。
「きっとこうすれば、出てくると思ってたんだ」
 私は不安に駆られ彼に抱きつく。彼の優しい両腕が私の体を抱く。
「君はどこにもいかないね?」
 私は答える。
「いかない。どこへも行かない。あなたの側にいる。離れない」
 彼は私を強く抱く。
「それでいいんだ」
 言葉は私を絡め、固定する。