プトレマイオス・マリッジ・トラベル
船旅は最後の港で終結する。私たちはパイシーズの港に舞い降りる。
港の空間を透明な魚たちがゆったりと泳ぐ。いずれも大きく、私たちは幻想的な空間に呼吸さえ忘れる。
「これらはみな、番いなのだ」
魚たちから目を逸らすと、そこに一人の男がいる。
「ひもが魚同士を結んでいるのが見えるだろう。つながるもの同士が、番いなのだよ」
再び魚に目を戻す。魚の口には金具が取り付けられており、そこから伸びる紐がもう一匹の魚につながっている。追い越し追い越され、並走し、魚は港の中を自由に泳ぎ回る。私たちのすぐ横でさえ、魚は泳いでいく。
「そろそろ、旅は終わりかね」
男の言葉に彼が頷く。船へ戻ろうと私たちが歩き出した時、男が私を引き止めた。
「私からあなたに、祝いの品を贈ろう。新郎には秘密の品を」
困った私は彼を見る。
「じゃあ、僕は先に行こう」
彼は苦笑してそう言う。私は彼に手を振る。もう恐れることはない。彼は私を待ってくれる。
彼の姿が船の中へ去っていく。
男が私に話しかける。
「騙されてはいけないよ」
そうして私にナイフを渡す。白銀のように輝くナイフは鋭く、私はそれを拒絶する。
「いけない、騙されてはいけない。あなたには見えないのか、自分の首につながる紐が。あの魚のように、あなたはつながれている。騙されてはいけないよ」
「そんなことは信じないわ」
「あなたは自分では気づかない。けれど一度だけチャンスが来る。それは最後のチャンス。それを逃しては、もうあなたの紐を誰も外せない」
「一体何の話をしているの」
「今のあなたにはわからない」
男は私にナイフを押し付ける。
「それを持って行きなさい。あなたの紐を切るたった一つきりの道具。私の名はアルレシャ。結ばれた紐を切ることができるのは私のナイフただ一つ」
私のポケットにアルレシャはナイフを押込め、背中を押す。私はナイフを返しそこねたままに船へ乗る。アルレシャが船の縁に触れると、すっと軽くなり、船が走り出す。
船の窓から私は港を覗く。アルレシャがそこには立っている。
騙されてはいけないよ。
アルレシャの唇がそう告げている。
船はセントラルポートへ向かう。
作品名:プトレマイオス・マリッジ・トラベル 作家名:ミツバ