#2 身勝手なコンピューター セルフセンス
「もう、時間がない。まだ足が完成していないけど、ロボットを起動しよう」
「カズ博士、そんなことしてもこの子は歩けないですよ」
ポチが怪訝そうな口ぶりで話した。
「解っている。ポチはそんな心配しなくてもいいんだ」
「あと1ヶ月で体は完成するのに」
カズはこっそりコンピューターに近寄り、ポチの停止コマンドを入力した。そして『ENTER』を押した。
するとポチは、動きを止め、プーーーンという小さな音を立てて停止した。カズはポチに近寄り、
「ごめんな」と言った。
「カズ君、君には何か企みがあるようだね」
「はい。実は教授、私はあなたの救出のために、ここに来ました」
「フン、救出だって。わしはコンピューターに閉じ込められてしまって、元の肉体さえどうなってしまったのかも判らない、幽霊のような存在だよ」
「母は行方不明になってしまった教授の捜索に、人生をささげて来ました」
「彼女の責任ではない。わし自身が無能だったばかりに、量子を甘く見てしまったからに他ならない」
「しかし、教授ほどの頭脳の持ち主であったからこそ、この恐ろしい量子コンピューターを作ることが出来たのです。以後30年、いくら研究を重ねても、まだ誰もこのコンピューターの謎を解明できていません」
「わしはこのコンピューターの中で生き続けていたことに気付いたのは、君が飛鳥山データと呼ばれているわしにアクセス成功した時だった。それまでは、自分がデータのみの存在だとは全く気付かず、ただひたすら研究を続けていたのだ」
「しかし教授、この飛鳥山コンピューターは、外部との接続を一切制限されてきました。インターネットの接続できない環境では、研究は進まなかったはずです」
「・・・確かにその通りかもしれない。まさか、あれから30年も経過していたとは思いも寄らなかったからね」
「母と私は、飛鳥山データを、つまり教授の思考を取り出すことが出来れば、全世界ネットに接続して、私たちでは理解できなかった謎を、教授自ら解明することが可能なのじゃないかと考えたのです」
「なるほど、それで新型ロボットにわしをインストールしようという計画だったのか」
作品名:#2 身勝手なコンピューター セルフセンス 作家名:亨利(ヘンリー)