#2 身勝手なコンピューター セルフセンス
STICと共同でその研究を引き継いだカズの母は、ある程度を解明したものの、まだメンテナンスを行う程度が関の山であった。当然、全世界がこの未知のコンピューターの研究を狙っているわけだが、情報流出を嫌って、その所在は極秘事項とされ、カズでさえどこに設置されているのかを知らされていない。つまり、カズ自身も自分がどこの研究施設に缶詰め状態なのかは、分かっていないのである。恐らく北海道辺りだろうとしか・・・。
しかし、子供のころから母親の研究を手伝い、今や量子コンピューター分野では右に出るものがいない該博な知識を身に付けたカズには、この飛鳥山(コンピューター)に保存されている謎のデータに付いては、完全に解明してしまっていた。
それは紛れもなく、飛鳥山教授そのものの記憶だった。そのことは母、睦美も予想していたが解明には至らなかった。STICもそれが飛鳥山データであることに気付き、それを取り出し、人の思考をコンピューターに保存する技術の獲得を目指しているのである。
何のためにか? もしそんなことが可能だというのなら、天才の分身を何人も作り出すことが可能になり、テクノロジーの開発は加速的に進むかもしれないし、死ぬ前に記憶を保存出来たなら、死後もコンピューターを通じて会話することも可能になる。
「教授、飛鳥山教授。おはようございます」
「うん。カズ君、おはよう。新型ロボットの完成まで、もう少しかかりそうだね」
飛鳥山コンピューターから音声が聞こえる。これこそが飛鳥山教授の保存された思考なのだ。
「はい、でもポチが頑張ってくれていますので、今日で90%以上は完成する予定です」
作品名:#2 身勝手なコンピューター セルフセンス 作家名:亨利(ヘンリー)